影と日の恋綴り | ナノ
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 自分でも

「陰陽師娘さん」
「?」

それは、伏目稲荷神社を後にしようとする前の時だった。

「な、なんや…神隠し…」
「そんなに警戒なさらなくてもよろしいですよ」
「で、神無ちゃんはどないしたんや〜?」
「あなたは結構軽いお人なのですね」

神無がゆらの元へ静かに歩み寄ったのだった。人間と妖怪という相容れない関係であるのに、近寄って来た神無に警戒をするゆらに対し、秀元は軽々しい、というか剽軽な様子で神無に尋ねた。

「…まあ別にどう呼ばれようと構いませんよ」

神無は呆れ、ため息を零したあとゆらに手に持っていたそれらを渡した。

「?なんや、これ」
「包帯と添え木、あと塗り薬でございます。鴆様から拝借しましたものです」
「なんでうちに…」

ゆらは、自分は怪我をしていないから渡される要素が見当たらないという顔をし、神無は苦笑を浮かべて言った。

「貴方ではなく、貴方の兄に渡して頂きたいのです」
「…竜二兄ちゃんに?」
「名前は存じ上げていなかったのですが、貴方さまの思っている方であっていると思いますよ」

ゆらは心底驚き、神無を見た後竜二へと顔を向けた。竜二はこちらに気付いている様子はなく、魔魅流と何かを話していた。

「本当は無傷でお助けしたかったのですが…」
「せや。なぁなぁ神無ちゃん」
「何でしょうか?」

秀元は手を招くような動作をしつつ、神無を呼び、訊いた。

「なんであの時、緋真ちゃんやのうて、僕らを助けようとしたんや?」
「!」
「?」

秀元の言葉に神無は目を丸くし、ゆらは不思議そうに神無と秀元を見て首をかしげる。

「本当なら、君は僕らやのうて、緋真ちゃんを助けるんやなかったん?」
「…はい。本来ならば、私は緋真様をお守りするはずでした」
「な、なら何でうちらを…?」

心底不思議そうに尋ねるゆらに、神無はゆらをじっと見て、そして別の方に目を向けたかと思えば…。

「さぁ…、何故でしょうかね…?」

と、はぐらかしたのだった。

「とにかく、それらを彼に渡してください。妖怪の私から渡されるのは、嫌なようですから」
「?」

そう言われゆらは振り返り竜二を見れば、何故か不機嫌そうな様子でこちらを見ていた。

「(な、…なんやねんその顔!!)」
「ですから頼みますね。…私はまだやることがあるので、これにて」
「あ、ちょお!!神隠し!!」

ゆらの言葉を無視し、神無は空間を通り抜けて黒田坊の元へと向かったのだった。

「…妖怪のくせに、なんでうちらの事を…」
「ゆらちゃん、それは偏見やで」
「え…」

秀元の真剣な声色に聞き返したゆら。秀元はゆらを見ず、奴良組へと視線を注ぎつつ、口を開けた。

「妖怪が黒っていうのは、まぁ京妖怪を見てたらそうなってしまうのは納得いく。せやけどな、妖怪が皆、人を襲うわけやないんや」
「妖怪は違う、って秀元は思うん…?」
「そうやねぇ。なんとも言えへんけどな、妖怪と人間には領分がちゃんと存在するんや」
「領分…?」
「せや。むやみやたらに命を奪うことは許されてへんのんよ。そして、妖怪にも色んな種類がある。土地神のように人間に信仰される妖怪もおれば、人間を愛しとる妖怪、手助けをする妖怪。色んな妖怪がおる」
「……」
「京妖怪だけを妖怪という定義にするのはあかんで。妖怪をその目で見て、善悪を定めるんも、陰陽師として大事な能力や」

秀元はそう言い、笑って奴良組の妖怪達に向かって「次は第七の封印場所に行くでー」と声を掛けに行ったのだった。ゆらは秀元をじっと見ていたが、自分の手の中に神無から渡された治療道具を見て竜二の元へと向かったのだった。

「竜二兄ちゃん、腕は大事ない?」
「ゆら。…まだ痛むから、俺はいったん本家へ戻って、」
「これ」
「?」

本家へ戻って応急処置をしようとする竜二の言葉を遮り、ゆらはそれらを渡したのだった。

「何だこれは…」
「痛み止めの塗り薬と包帯、添え木や」
「なんでお前がそんなものを…」
「神隠しが、竜二兄ちゃんにって」
「…俺に?」

ゆらの言葉が信じれず、思わず神無へと目を向ける。神無は黒田坊や秀元と今度の事について話しているようで、真剣な表情をしていた。が、ふと竜二の視線に気付いたのか、神無はこちらへ顔を向けたのだった。
互いに目が合い、驚く。と、先に驚きを終えたのは神無で。

「…」
「!」

神無は竜二に誰にも分からない程度の笑みを送り、再び話に集中し始めたのだった。

「…竜二兄ちゃん?」
「…時間がねぇからな。使わしてもらうとすっか」

そう言ってゆらから包帯その他諸々を奪うようにして取る竜二。そんな竜二に、ゆらはただ目を丸くすることしか出来なかった。

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