影と日の恋綴り | ナノ
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 土蜘蛛の“畏”

みんなやられちまったのか――?
ふざけんな。
させねぇ。

「リクオ様…?」

させねぇ。

「リクオ…」

土蜘蛛に向かって怒り、声を荒げた自分達の総大将に戸惑い動揺する部下達。
これ以上オレの百鬼夜行に、手ェ出すんじゃねぇ!!

「若!!」

神無は咄嗟に叫んだ。それもそうだ。リクオは再び土蜘蛛に向かって飛び出したのだから。

「リクオ様……!」
「ちょ…人間に戻ってない!?」

驚く首無と毛倡妓。二人に教えたのは竜二だった。

「封印だ。ここらは妖気が完全にはれた」
「え…そんなっ。奴良くん…人間の状態で土蜘蛛につっこむ気!?無茶や!!」

ゆらが叫ぶ。

「あの…馬鹿者が…!!」
「おやめください、リクオ様ァ!!」

燈影が舌打ちをしたくなるほどの怒りを抱き、神無がリクオを止めようと叫ぶ。

「つっこむな!!リクオ!!」

イタクも叫び止めようとする。しかし今更言われても止まるわけもなく。土蜘蛛は突っ込んできたリクオに容赦なく拳を振った。
その瞬間だった。

「!?」
「ム」
「え…」
「な…っ」

土蜘蛛の右手の小指が斬られた。
誰がしたのか言わずもがなリクオであり。
奴良組は、皆は誰もが驚き声を上げる。

「リ…リクオ様……!!」
「斬った……!?」
「土蜘蛛を…斬ったーッ!?」

止めどなく流れる赤い液体。ボタリ、と落ちる大きな指。
そして微かに弱くなった妖気。

「………」
「あれは…」
「な、今何をしたんだ…?」
「!」

祢々切丸…!

「竜二…ゆら、見とけ。あれが祢々切丸や…」

秀元は真剣な表情で二人に言い、リクオと土蜘蛛の戦いをじっと見る。

「……なんだ…こりゃ」

土蜘蛛も少しは驚いていた。しかし、それは一瞬の事で。土蜘蛛は容赦なく次の攻撃を繰り出した。再び地に伏せられると誰もが思ったものの、リクオは無意識なのか鏡花水月を繰り出し、土蜘蛛の攻撃を避けたのだった。

「リクオ様!!」
「土蜘蛛の奴…効き始めた!?」

驚く妖怪達。
そんな中、首無たちはこの光景に既視感を覚えていた。
見たことのある光景。リクオの状態。以前、そう、四国八十八鬼夜行の総大将である玉章との戦いで見た。
昼と夜が交ざり合った状態のリクオ。

「うおおおおおおおおお!!!」

声を上げ、土蜘蛛の懐に入ろうとしたリクオ。再び一撃を、と誰もが思った。
しかし、現実は甘くなくて。

「調子に乗るな」

一瞬でリクオを捕獲し、空いていた腕で肘打ちをリクオに容赦なくした。

「リクオ様ぁ!!」
「……」

百鬼夜行破壊――それが土蜘蛛の“畏”である。
徹底的に大将を狙い続け…なぶり続ける。
するとどうであろうか――どのような強者が百鬼にいようが力を発揮できなくなってゆく。百鬼が脆くも崩れてゆくのである。
もしリクオが土蜘蛛の畏に耐えることが出来たなら…本当の大将の畏を纏っていたなら…事態は変わっていたはずなのだ。
土蜘蛛は―――リクオにとってまだ会ってはいけない妖だった。

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