影と日の恋綴り | ナノ
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 百鬼夜行の崩壊

それは数時間前に遡る。

「二代目!?」
「おう、神無。さっきぶりだな」

緋真を突然背後から気を失わせたのは、父であり奴良組二代目である鯉伴だった。緋真の身辺警護を任されていた神無は鯉伴の登場に驚きを隠せなかった。

「何故二代目が…!?本家にいるはずでは…!」
「いやなぁに、ただ京に散歩しに行きたかっただけだ」
「(…絶対嘘でしょう)」

鯉伴の返答を信じず、神無は内心そう思った。鯉伴の返答に呆れ、そして緋真を心配そうに見た。

「…緋真様は、気失われているだけですね」
「ああ。突然だったからな。緋真、びっくりするだろうな…」

優しい眼差しで緋真を見る鯉伴。神無は緋真は大丈夫だろう、と確信して別の場所へ視線を変えた。

「操影…!」
「ふんっ!!!」

影を操り、対象を捕え、攻撃を繰り返す燈影。
動きを止められたのに、無理やり動かし攻撃をかわし、反撃をする土蜘蛛。

「チッ…!」
「お前ェ、ちったぁやるじゃあねェかぁあ!!」
「騒がしいのは、好まぬ…!」

影鬼・暗黒誘殺。
相手の影を利用して首を絞め殺す技。雑魚妖怪ならば、一発で死ぬ攻撃。しかし、相手は平安時代から関西地方に巣食う古の妖怪。
簡単に倒せるわけがなかった。

「こざかしいわ!!」
「!?」
「燈影様ァ!!」

影を破り、身体を回転させ、その力を利用して燈影に向けて放たれた蹴り。

「っ!」

完全に隙を突かれた…!
燈影はとっさに自分の操れる範囲の影で土蜘蛛の威力を吸収しようとした。しかし、それは一歩遅くて。

「ぐっ…!!」
「燈影様ー!!」

吸収しきれなかった土蜘蛛の威力が燈影を襲った。顔を青ざめる神無。そして驚き目を丸くした鯉伴。強さを知っているからこそ、やられたところ見てしまい絶句する奴良組の妖怪達。

ドガァアン!!

燈影は受身の体勢をとることもままならず、そのまま鳥居へとぶつかって行った。神無は慌てて燈影の元へ駆け寄る。その間に、土蜘蛛は燈影に対しての興味が消えたのか、再び別の妖怪を狙い始めたのだった。

「燈影様、大丈夫ですか!?」
「っ…あの、ヤロ…!」

額を切ったのか血が流れ背中に対する衝撃が強かったのか血反吐を吐き、衣服は土をかぶり裾がボロボロになっていた。燈影は神無の手を貸してもらい起き、影で作られた鎌を手にして再び走り出そうとした時だった。

「次はおめーだ、女」
「!?」
「な…!!」

土蜘蛛が指差した相手は、氷麗だった。神無も燈影も驚き、そして氷麗に逃げろと声を掛けた。しかし、彼女に他人の声を聴く耳をしていなかったようで。

「リクオ様の、カタキ……!!」

彼女の技である「風声鶴麗」で土蜘蛛を倒そうとしたが…、

「雪女ァ!!」
「氷麗!!」

呆気なく、彼女はその拳に吹き飛ばされた。燈影は「クソッ…!」と悪態を吐きながらも土蜘蛛に向かって攻撃をしようとした。しかし、とある一点を見て目を丸くした。
弧を描くようにして飛ばされた氷麗。そのまま瓦礫の上に叩きつけられるかと思っていたが、何かに当たり、緩和された。痛みを我慢し、震える身体に鞭を打ってゆっくりと振り返り見ると、そこには、

「あ…、リクオ様だぁ…………。よかったぁ…、生きてらっしゃったのですね……」

その身が滅びようとも生涯守り続けると誓った存在。

「よかった…本当に…。これで…また、守れ…ます…」

リクオが生きていた事が彼女の何よりの喜び。氷麗はそのままゆっくりと意識を手放した。
血濡れの状態の氷麗。
怪我を負い、苦痛に顔を歪める燈影。
息絶えた部下。

「てめぇぇはんだ…まだ生きてやがったのかああ!?」

リクオが生きていることに驚く土蜘蛛。リクオは大きな血の塊を吐き、土蜘蛛を睨み付けて言った。

「……………。てめーが殺しそこねたんだろ…」

その言葉に土蜘蛛は止まった。
リクオはゆっくりと氷麗の手を取り、彼女を自身へと引き寄せた。

「こいつらは…オレの部下だ…。オレの畏についてきたやつらなんだ…。“ボク”が生きているうちは…、こいつらに手ェ出すんじゃねぇよ…」

ゆっくりと、雲と雲の間から後光が差す。
太陽が顔を出す。

「百鬼夜行壊すってんなら、オレを殺ってからにしろくそったれ!!!!!!!」

リクオの悲痛の声が木霊した。

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