影と日の恋綴り | ナノ
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 身を案じる

安心する匂いがした。
心が落ち着く、そんな香り。
リズムよく振動が伝わる。
身体が温かい。ぽかぽかする、陽だまりの匂い。
もう少しこのまま寝ていたい。もう少しだけこの背中に居たい。
……ん?背中?

「……う、ん…」
「目ェ、覚めたみてぇだな」
「…!?」

首の辺りが痛くて少し声を漏らし、身をよじらせていたら聞こえた声。絶対に間違えることのないその声に、あたしは完全に覚めた。バッと離れるように勢いよく身体を起こせば、視界いっぱいに広がる黒と緑の縦縞模様の着流し。

「お、お父さん…?!」
「おう」

私をおぶっていたのは、父である鯉伴様だった。

「ぇ、あ、な…、ど…!?」

何で此処にいるの?どうしてあたしはおぶされているの?
聞きたい事がたくさんあって。処理しきれていないあたしに、お父さんは笑った。

「ははっ、聞きてぇ事がたくさんありますって顔だな緋真」
「そっ…そりゃ、そうだよ…」
「まーそうだよなー。元気よく見送ったからねぇ、俺ァ」

そう。お父さんはあたし達が出発する日、門まで見送ってくれていたのだ。気を付けてくれって、無理はするなって。そう言ってお父さんと別れたのに。

「…どうして、此処にいるの?」
「んー?」
「それに、あたしは何でお父さんにおんぶされてるの?」
「そうだねー」

それだけじゃない。
リクオはどうなったの?
皆は?奴良組は?ゆらさん達はどうしたの?
神無は無事なの?
燈影は、怪我をしてないよね?
リクオは、死んでないよね?
まだまだ聞きたいことはたくさんある。お父さんはあたしが言いたいことを分かってるのか、静かになるまで黙っていた。

「落ち着け、緋真。ちゃんと最初から説明するからよ」

それより、とお父さんは私を降ろして今度は抱き上げた。

「お、お父さ…!?」
「傷は出来てねぇな」
「!」

ちくり、と鈍い痛みをした其処は、あたしが気失う前に痛みがあった場所。
もしかして、お父さんがしたの?
口にはしないで、目で訊けばお父さんは「悪かったな」と頭を撫でてあたしを降ろした。
つまりは、自分がしたとお父さんは肯定したのだった。

「お父さん…、皆はどうしたの?」
「…まだ、伏目稲荷にいるよ」
「皆、怪我…してない?」
「鴆が見ている。重傷になった奴は、宝船にいるようになってるよ」
「っ…燈影、は…?」
「……」
「リクオ、は…?」
「……」

無言になったお父さん。
どうして答えてくれないの?
何で何も話してくれないの?
言えないことなの?
袖を握り、お父さんを見ればお父さんの目は真剣だった。

「…リクオも、燈影も、生きている」
「っ…」
「ただ、燈影は…」
「え…?」

燈影は、組から離れた。
お父さんの言葉に、頭の中が真っ白になった。

「燈影が組から離れたって、どういうこと…?」
「…そのままの意味だ」
「っ!」

ギュッと、拳に力が入った。
ねぇ、本当に何があったの…?

「お父さん、教えて…。何が、あったの…?」
「……」

お父さんはじっとあたしを見て、何かを考えたかと思えばくるりと背を向けた。

「お父さ、」
「ゆっくり、」
「?」
「散歩しながら話そうぜ。緋真にとっちゃあ初めての京だ。夜の京ってのも、格別だからな」

そう言って、楽しそうに、面白そうに言ってお父さんは歩き始めた。

「……」

さすが、ぬらりくらりと生きていることで…。
敢えてもうツッコミをしないぞ、あたしは。

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