▼ 家族
「本当に、緋真…なのね…?」
「!」
リクオの後ろから、震えた声で聞いてきたお母さん。リクオは気を利かせたのか、さっと横に動いてお母さんと対面する。あたしが産んだ歳が若かったからなのか、本当に子持ちの人には見えない。
そう思いつつ、あたしは苦笑を零して言った。
「はい。…あたしは、…今は藤堂緋真ですが、前は…前世では奴良緋真でした」
「ッ!!!」
ハッと、息を飲む声が聞こえた。そのまま肩を奮わせるお母さん。何も言うことが出来なかった。ただ、この部屋は無言だけで…。
「緋真っ」
ぎゅっ…
………え?
心地よい温もりがあたしを包んで、太陽のような香りがした。
誰に、抱き締められている?
「…ぉ、か…」
「緋真…!緋真……っ!!」
ギュッと、さっきよりも強く抱き締められてただあたしは固まる。けど、心の奥底から溢れ出てくるのは…、じわり、と込み上げてくるものは…間違いなく、
「お、母…さぁん…!」
紛れもない喜びだった。我慢できなくて、再び涙を流してあたしはお母さんを抱き締めた。ギュッと、触れたかったお母さんの温もりがあたしを包み込んできて。
嬉しくて、涙が止まらない。
「また、貴方に会えて…良かったわ…!!」
「っ、どうして…」
「え…?」
「どうして……気味悪いって…思わない、の…?」
「………」
お父さんの反応も、リクオの反応も、お母さんの反応も皆嬉しいだけで、どうして、あたしがウソをついているとか、思わないの?何で素直に受け入れているの?
思っていたことを聞いてみると、お母さんはあたしから離れてお父さんと眼を合わせてにこり、と笑って言った。
「…確かに、私達は娘が…緋真が血だらけのまま息を引き取った最期を見たわ」
「っ!それなら、どうして…!!」
「けどね、成長するリクオを見守りながら、今此処に緋真が居てくれたらどうなってたのかしら、って思い続けてたのも、本当なの」
「!?」
「それに、ちょっと不思議な事もあったのよ」
「ぇ…?」
お母さんは最後に意味深な言葉を呟いて、お父さんと笑い合った。けど、お母さんは、すぐに太陽のような、安心するような笑みを浮かべて話してくれた。
「たとえどんな姿で生まれ変わったとしても、私と鯉伴さんは緋真の話を信じるわ。私たちが自分の子供を疑う訳ないし、自分の子供を信じないなんて有り得ないでしょう?」
「そんな人がいるなんて、可笑しいもの!」と豪語するお母さんに、自然と涙は引っ込んでいく。それを見計らって、お母さんは優しい顔つきになってあたしを見つめてきた。
「…それに、私と鯉伴さんが自分の娘を、緋真を見間違えるはずないでしょう…?」
「……っ」
その言葉が、どんな想いでどんな意味を含めているのかは普通に分かる。お父さんとお母さんがどう想ってそんな事を言って、リクオを見守っていたのかさえも…。
はらはらと、止まっていたはずの涙が再び溢れ出る。
それを拭い取ってくれるかのように、お父さんとお母さんはあたしを抱き締めた。驚いているあたしに、お父さんとお母さんはあの大好きなあの優しい笑顔とともに言った。
「お前を、緋真を…守ってあげられなくて、ごめんな……」
「そして、私達の所に戻って来てくれて……、今まで生きてくれてっ、……ありがとう、緋真……」
「っ…お母さ…お父さ…」
「やっと孫娘に会えたわい!!」
「わっ!!」
感動の再会、とお父さんとお母さんに飛びつこうとすると突然背後から衝撃が。けど、結局はお父さんとお母さんに飛びついたから結果オーライだけど…
だ、誰だ!?と思って背後を振り返ると…
「ったく、お前は違う意味でこの世をぬらりくらりとしたんじゃのぅ!!」
「じ、爺や…!!」
自分の祖父でもある大妖怪・ぬらりひょんがニッと笑って言った。そのままあたしが呼んだ言葉に「おーおー、懐かしいのぅ」としみじみ言ってガシガシ頭を撫でてきた。
「お前には色々驚かされるもんじゃ!長い旅をしよったのう」
「じいや……」
「……お帰り、緋真。お前には礼をせんといかんかった」
「お、れい……?」
笑顔に、どこかしら悲しみを帯びた爺やはゆっくりと口を開いた。
「鯉伴を、儂の息子を護ってくれて……ありがとう」
「っ……」
「じゃが、それと引き換えに孫娘を失ったのはつらかったぞ。…もう、誰の犠牲になろうとするんじゃねぇぞ」
ああ、爺やにも悲しい思いをさせてしまったんだ。そうだよね、お父さんを失った時だって…リクオにお前まで失うわけにはいかないって言ってたのを思い出した。
ごめんね。ごめんなさい。
「っ…爺や…ただいま……!爺やよりも、先に…死んじゃってごめんなさい…!」
「おかえり…可愛い孫娘……!」
抱き締められて、ボロボロとまた涙が零れた。
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