▼ 親子
「ッ…うっ…」
バタリ、と体力が尽きてしまいあたしは玄関の傍に寄りかかった。それと同時にきたのは焦燥感と恐怖。
ばれたバレたバレタ…!!あたしの存在が知らされた…!!
どうしてこうなったの?
あたしがいたから?
あたしがこの世界に生まれ変わったから?
またここに生まれ変わったから?
お父さんの子だったから?
これじゃあ、あたし…あたし…!!
「緋真」
聞きたくて、聞きたくない声がした。
「…ぁ…」
振り返ればそこにはやっぱりお父さんがいた。逃げれないと思っているけど、逃げたくて。バッとまた走り逃げようとした。けど、結局は大人と子供だ。いとも容易く捕まった。
「離して、…離してください!!」
「そいつぁ…、出来ねぇ相談だ」
「離して、お願い…お願い…!!」
ジタバタと暴れて逃げようとする自分。みっともない姿だけど、それよりも逃げたくて仕方がなかった。
「あたし異端なんだよ、バケモノだよ!?前世の記憶があるなんて…不気味だよ…?!ねぇ、お願い……放っておいて…!!他人、なんだよ…?」
「っ……」
「っごめんなさい。でも、お願い…ッお願いです、もう関わらないから。関わらないから、離して下さい…っ」
苦しいけど、最後に、とお父さんに笑みを見せる。
あたしを自由にして。
苦しいけど、大丈夫だから。
心配なんかしなくていいから。
気にかけなくていいですから。
独りで生きていけるから。
「…バカなことを言ってんじゃねぇよ」
そういう意味で言葉を紡いでいるのに、お父さんはあろうことかあたしを強く抱き締めて言い放った。
「娘を…自分の娘を見捨てる親なんざ、親失格だ」
「っ!?違う、違う違う違う違う!!あなたは最低な親じゃない!違うんです!あなたは、奴良くんのお父さんは最低じゃないです!悪くない、奴良くんのお父さんは…あなた、は……っ……」
俯いて、言いたいことを抑える。
貴方は素敵な人です。あたしを、あたしが生まれ変わってもあたしを心配してくれた素敵な人です。自分を最低だと決めないで。素敵な人なの。優しい人なの。
あなたが父親で本当に良かったんだよ?
“私”は貴方と出会て、本当に嬉しかったんです。
強く、血が出てしまうくらいに唇を噛んで言いたいことを我慢する。駄目だよ、もう赤の他人なんだから関わっちゃいけないんだ。もう、放っておいてよ。
黙ったあたしをお父さんはギュッと、さっきよりも強く抱き締めて言った。
「…なぁ、もう一回…“お父さん”って呼んでくれ…」
そんな顔して言わないで。悲しい顔をしないで。
あたしは、貴方にそんな顔をさせたくて自ら死んだんじゃない。
庇ったんじゃない、守ったんじゃない。
「お前の声から、緋真の声から、また…“お父さん”って聞きてぇんだ…」
「っ……」
声からでも分かる。お父さんがどんな思いであたしにそんな事を言っているのかが…。辛い、悲しい声であたしに言っている言葉が、胸に突き刺さる。
そんな事を言って……あたしは、あたし…は…、
「……さ…」
認めていいの?
「…っと、さ…」
受け入れてくれるの?
信じてくれるの?
「…聞こえねぇなぁ…」
「…おと…さ…」
「…もう少し…」
あたしをまた、
「……おと、う、さぁん…」
娘だと、思ってくれるのですか?
「っ緋真……!」
お父さんは強く、離さないとでもいうかのようにあたしを強く抱き締めてくれた。それだけでもぬくもりは感じれて。
あたしはこの人の腕の中にいるって。
あたしを娘だと思ってくれているって。
娘だと受け入れてくれたって。
あたしを、娘だと受け入れてくれたって。
「お父さん、お父さん…!!う、うっうわぁぁああぁあぁぁああぁぁんん!!!!」
小さな子が泣き喚くように、あたしは鯉伴様の、お父さんの腕の中で大きな声で泣いた。
親子
(心のどこかで、思っていたのかもしれない)
(いつか、お父さんがあたしを“奴良緋真”と気付いてくれて)
(あたしを家族として受け入れてくれる事を)
(心の奥底で願っていたのかもしれない)
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