▼ 大事な娘
(鯉伴side)
「あんたに、あんたに…あんたになにが分かるのよ!!?あたしはもう生まれてから認めている!気付いている!受け入れている!分かっているよ!!あたしは…あたしはっ…!!?」牛頭丸の言葉によって自分の想いを一部だけ曝け出した緋真。そのまま彼女は廊下を走り去って、逃げていった。俺やリクオや燈影も追いかけようとしたが、それよりも早くあいつは姿を眩ました。
逃げ足が速いのは変わらないようで、つい笑いそうになった。
「リクオくん…?緋真ちゃんは…?」
「カナちゃん…。ちょっと、ね…」
「…なぁ、カナちゃん」
ふと、聞きたくなった。もし、あいつが俺たちに何か言いたくないことをあんなふうにたくさん抱えていれば、少しでも言いたくなるときがあって、それが俺たちじゃないなら。
きっと、彼女に…、
「…緋真ちゃん、寂しいようなことをいつか言ったりしなかったか?」
「え…?」
俺の言葉に理解できなかったのか、リクオの友達のカナちゃんは目を丸くした。けど、すぐに俺の言葉を理解して緋真の言動や今までのことを思い返し始めた。
もし、俺の勘が良かったら…、
「“会いたくても会えない寂しさ”」
聞き間違いかと思ってしまった。
ゆっくりとカナちゃんを見れば、カナちゃんはその時を思い出すように緋真のことを教えてくれた。
「緋真ちゃん、入学式の日にね教室で辛そうな顔をして…気になって声を掛けたんです」
「…そのときのこと、教えてくれないか?」
「父さん!?」
「は、はい」
リクオの驚いた声を無視して、俺は彼女の話に聞き耳を立てる。
「緋真ちゃんに辛いことがあったの?って、哀しい事でもあったの?って聞いたら、緋真ちゃん、私に」
「会いたくても…、会う事すら出来ない存在の人達が居たら…あなたはどうしますか?」「って…。質問の意味が分からなくて、どういう意味か聞いたら…」
「例えば、生き別れした家族がすぐ傍に居ても会う事すら叶わない…みたいなもの」その言葉に、俺の中で何かが崩れ落ちた音がした。
「……っ…」
目を丸くするしか、なかった。
あいつは、いつから俺たちに気付いていた?入学当時からだと?
それからずっと、俺たちを見ていては悲しい思いをしていたっていうのか?
やっぱり、あいつは生まれ変わっていたのか?
あいつは、本当に俺たちの娘なのか?
自己嫌悪に浸っていると、それと、とカナちゃんは続けて言って話した。
「緋真ちゃん、我慢していたみたいだから我慢することないって言ったら…」
悲しい笑顔を浮かべてこう言ったんです、とカナちゃんは続けてくれた。
「…あたしの願いはね、叶ったの。大切な人を守れて、大切な人たちが笑顔で生きていることが、あたしの願いなの。だから、あたしは離れてて、見守っているの。深く関わらず、離れたところから守るの」その言葉を聞いた瞬間、俺は駆け出した。後ろでリクオが呼んでるが、それを無視して俺は走った。気配で分かるから安心した。もし、あいつが気配を消しているとしたらやっかいだった。
「お父さん!」俺は最低な親だ。
「と、さ…」自分の娘一人も悲しみから救えやしねぇ最低な父親だ。
あいつがどれだけどんな目で俺たちを見ていたのかも知りもしない気付けやしない馬鹿野朗で。
なにがあいつの父親だ。
親失格同然だ。
だから、今からでも謝らせてくれ。
もう一度、父親として接してくれ。
俺に縋って、泣いて、泣いて、泣き尽くしてくれ。
もう一度、家族になろうじゃねぇか。
「お前の親は俺で、俺の娘はお前なんだよ…緋真っ」
ただその一心で、屋敷内にいるであろう我が娘を探し回った。
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