▼ 崩壊の予兆
やめて。
言うな。
来るな。
近づくな。
「ちが、あたしは…」
「認めやがれ!!奴良緋真!!!」
「っ!」
牛頭は本気であたしに怒っていた。どうして牛頭がそんな真剣になるの。そこまでする義理なんて無いじゃん。でも、それを言うような口は私には無くて、素直に、彼を“畏れ”てしまった。
「目を背けんじゃねぇ!!受け入れろ!!何で若頭や二代目を見て泣きそうな顔をするんだよ!!」
牛頭丸に言われて思い出すのは、中学校に入学した時のあの日。
廊下で姿を見て、グラウンドで皆の姿を見て。
「っ…」
また会えた喜びと同時に生まれた、孤独感と悲愴感。
手が届く距離にあったのに、あたしの居場所はあそこには無くて…。
「…う、…い…」
「若頭のために山を登ったのは何処のどいつだよ!お前じゃねぇか!!」
捩眼山で、リクオが心配で追いかけた山。
けど、私を待っていたのは獰猛な牛鬼だった。追いかけられて、窮地に追い詰められて、そこで覚醒した自分のもう一つの姿。
「何で俺に自分の姿を明かしたんだ!何故俺の名前を呼んで、俺の傷をいやしたんだ!」
そんなの、当たり前じゃん。
馬頭と一緒に、あたしと遊んでくれたのはアンタ達だけだったんだよ。敬語をあまり使わないで、ため口で遊んでくれたは牛頭が最初だったんだから。
でも、牛頭に自分の素性を明かしてしまったのはどうしてかあたしにも分からなかった。
「本当は気付いて欲しかったんだろう!?自分を見て欲しかったんだろう!?」
もうやめて。それ以上言わないで。ズケズケと踏み込まないで。
「何で怪我を負った二代目に『父』と、『お父さん』って泣き叫んだんだ!!それはお前が、」
「もう何も言わないで!!!!!」五月蝿い、うるさい、うるさい煩いウルサイうるさい!!
「あんたに、あんたに…あんたになにが分かるのよ!!?あたしはもう生まれてから認めている!気付いている!受け入れている!分かっているよ!!あたしは…あたしはっ…!!?」
ふと気付けば、部屋の空気は静かになっていて、あたしの声しか聞こえていなくて、
「……ぁ………、」
自分の立場に気付いてしまった。
「っ!!!」
「!?委員長っ!!」
妖怪たちを押しのけて、あたしは部屋を、廊下を駆け抜ける
駄目だ、終わりだ、今までの苦労が水の泡だ…
もう、あたしには彼等と関わる権利なんかない!
「?緋真ちゃんっ!?」
あたしの足音に気がついたのか、障子を開けて目を丸くしたカナさん。けど、あたしはそれどころじゃなくて…、目に溜めていた涙をボロボロと零しながら通り過ぎた。背後でリクオやお父さん、カナさんの声が聞こえる
けど、あたしにはもう…
「ここに、いることはもう出来ない…!!」
この世界にいることが、出来ない…!
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