影と日の恋綴り | ナノ
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 吉凶のカウントダウン

「……」

目が覚めると、そこは見覚えのある部屋だった。

「ここ、は…」

ゆっくりと身体を起こして周りを見れば、和室だというのが理解でき自分の家ではないことが分かった。じゃあ誰の家?そう思ったけど、この和室がまたあたしの中で懐かしいような部屋である事も分かった。

「この、部屋…」

嫌な予感がしてしまう。ゆっくりと、立ち上がって障子を少し開けて隙間から外を覗いてみれば、綺麗な庭に立派な枝垂桜。
ああ、とうとう思い出してしまった。
この部屋は、【奴良緋真】だった頃の部屋。
つまり、この部屋があるということはこの家は、リクオの家だということ。
奴良家だということ。

「…逃げなきゃ」

この家にいると、あたしはあたしで居れなくなる。我慢できなくなって、全てを吐き出してしまいそうになって、

「っ…」

嫌われる。
着せられていた着物のままあたしはこっそり部屋を出てそのまま屋敷から出ようとした。けど、

「ぁ、緋真ちゃん!」
「!!」

丁度背を向けたと同時だった。あたしの背後から聞こえた声は、聞きなれた声で…

「カナ、さ……奴良、く…」

あたしに声を掛けたのはカナさんで、その隣にはリクオが立っていた。ただあたしは目を丸くすることしか出来なくて、ゆっくりとリクオ達はあたしに近付いてきた。

「委員長、まだ寝ていないと駄目だよ!早く部屋に…」
「……っ!」

自分の足に鞭打って、あたしは脱兎の如く廊下を走った。背後で声を上げたのが分かったけど、でもあたしは足を止めることなく門に向かって走った。

「待って、委員長!!」
「放っといて下さい!!!」

背後からリクオが追いかけてくるのが分かった。
放っておいてよ。
一人にさせてよ。
関わらないでよ。

「赤の他人でしょ!?」
「っ!」
「!ぁ……」

思っていたことが声に出ていたようで、リクオが足を止めたのが分かった。ひどい事を言ってしまった、と思ったけどそれでも此処から逃げたいのは変わらず、リクオを放ってあたしは庭に出て門に向かって走った。
門はすぐそこで、あともう少しで出れると思った。

「燈影!首無!青!黒!」
「!?」

リクオの声と、同時に聞こえたのは懐かしい複数の気配。

「っ…きゃっ!?」

その油断の間に、あたしは何故か身動きが取れなくて、身体に何かを巻かれていて、見てみれば赤い紐。そして、自分に影がさしたと思って上を見れば大きな身体の青田坊とそばには黒田坊が。たらり、と冷や汗が頬を伝った。
女の子一人相手に豪勢なお相手を命じたな、コノヤロー!!

「っ…、は、離して!離して下さい!!」
「逃げられないですぜ、もう」
「影から逃れることは出来ない。…じっとしてくれ」
「この紐からも逃げるのは無理だからね」
「若、捕らえました」

見事に捕まってしまったのだった。ザッと地を蹴る音がしてそっちのほうに目を向ければリクオが立っていて、

「…ありがとう、燈影、首無、青、黒」
「いえ…。…それより…」
「ッ………」
「…うん。連れて行くよ」

何処に、など聞けなかった。否、聞く必要がなかった。
自分でも、理解していたから。

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