影と日の恋綴り | ナノ
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 外れた想い

背中から止まる事を知らない赤い液体が地面を、私の身体をゆっくりと赤く染める。
手足が震え、焦点が揺れ、心が酷く動揺した。

“おい緋真!!目ェ開けろ!!!”
“おと…さ…”
“フフフフフ……”


ドサリ、と鈍く重い音をしてお父さんは倒れた。
何が、起きたの?

「…ぁあぁ…?……ああぁあ……!」

あたしに寄りかかって倒れてるのは誰?
血を流してるのはダレ?

「うぁ、あぁ……あぁあぁぁ…!」

あたしを庇って倒れているのは誰?
血の海に倒れているのはだれ?
“私”の前で、

「…ゃ、いや……いや……!」

血まみれになって倒れているのはダレ?

「緋真ッ!!!」

あたしの中で、何かが崩れ落ちた。

「いや、いやぁあ!!!いやぁあぁあぁぁ!!!!お父さん、お父さん、お父様ぁあぁああ!!!!」
「?!何で緋真が親父の事を!?」
「嫌だよ!!ねぇ!!お願い!!目を開けて!!死なないで!!お願い、お願い!!おねが、い…死なない、で…!……っ…お父さぁん…」

身体を揺さぶり、悲鳴を上げ涙ながらに懇願する。だんだんと冷たくなっている手、止まることを知らないかのようにお父さんの背中から流れ出てくる赤い液体。
死なせない、死なせたくない。

「っ…!」

死なせるもんか。
血も何もかも知ったこっちゃない。もたれ掛かっているお父さんをそのままに、お父さんの背中に掌を当てる。涙を溢しながらもすることは分かっていた。周りの目なんて気にしてなんかいられなかった。手のひらに集中し、全ての力を出し切るようにあたしは治癒の力を放出した。暖かな光が、お父さんを包む。

「これは…!!」
「な…!?」
「お父さん、お父さん…お願い、おねが…い…おと、さ…」

ぽん…

頭に置かれた手。そして、ギュッと強く握られた手。ゆっくりと、お父さんをぼやけた視界で見つめると…、

「何だ…、また…悪ぃ夢でも…見たの、かい…?」

その言葉は、いつしかの言葉で。
ぽろりと、一筋、また一筋と涙が頬を伝って流れ始めた。

「おと、さ…」
「―――っ……」

あたしに笑みを送って、お父さんはゆっくりと意識を手放した。どっと肩に重みが掛かり、支えきれなくてずるずると倒れ込むお父さん。監禁していたあたしの体力では治癒の力も限界になっていたみたいで、徐々に光は弱まっていた。
やだ、死なないで、嫌だ、ヤだよ…。
奪わないで。
この人を、皆から、あたしから、“私”から、奪わないで…!

「お父さん、お父さん…!っ、鯉伴様…!」
「おい、親父!!」
「鯉伴!」
「鯉伴様!!」
「二代目!」

お父さんの周りに燈影や首無や神無やリクオ達が集まってくる。まだ、戦いの途中でしょって、言いたいけど、言えるような状態じゃない。
お父さんを、死なせたくない。
“私”は貴方を失いたくないの。

「お願いっ…死なないで…!っもう、もう…やだよぉ…」

失うのはあたしだけでいいから。
消えるのはあたしだけでいいから。
お父さんを失うのはいやだから。
お父さんを救いたい。
“鯉伴様”を救いたいの。
ただその一心で、あたしは傍に落ちていたガラスの破片を手にとる。

「!?おい緋真、お前なに、」

――――ザシュッ

あたしの行動に気付いたリクオが声をかけるが、時既に遅し。あたしはガラスの破片で自身の腕を切って血を流す。
痛い、焼けるような痛みが身体中に広がる。
まわりが息を呑んだのが分かった。
でも、そんなの気にしてなんかいられなかった。

「お父さん……!」

父を助ける為には腕なんて差し上げる、腕一本持っていかれようが、脚を持っていかれようが関係ない。
お父さんを助けることができるならなんだってする…!!!

「お父さん、目を開けて…。お願い、っ…お願い…死な、ない…で…」

そのままあたしはお父さんの癒えかけた背中に自分の腕から滴る赤い液をぽたり、ぽたりと、血を与える。お父さんとあたしと同じ血液型。
だからできる行い。

「死な、ないで……」

――――するとどうだろうか。

「おい、見ろよ…」
「あぁ…。傷がどんどん…」
「顔色も、よくなって…」
「……癒しの、」

首無たちが驚いている間にも、お父さんの傷は塞がりかけていった。

「…おと、さ…」

そして、お父さんが負った背中の傷が掠り傷程度になったころには、あたしは気を失った。

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