▼ 魔王の小槌
「…?!」
すると、視界の端が明るくなってきた。それに、焦りが出てくる。
「空が白んできたぞ、リクオ…」
玉章の言うとおりだった。闇色だった空は、次第に明るさを取り戻している。それは、リクオが人間に戻ることを示していた。
「若…!」
「リクオ…!!」
「恨むなら、非力な自分の″血″を恨むんだな…」
玉章はリクオに近寄り、異形の姿になった刀を、リクオの顎にあてがう。
「この街に来て一週間…とうとうこの玉章の″畏れ″が…奴良組総大将のそれを凌駕したのだ!」
「!!」
「リクオ様からはなれろぉお〜!!」
燈影が、神無が、首無が、黒が青が氷麗が、河童が、側近の皆がリクオを助けるために、玉章に立ち向かう。
「何故……君達は、こんな弱い奴についてゆく…?」
「ああ?当たり前だろう……」
「それさえ分からぬ貴様が魑魅魍魎の主と名乗るのは、夢のまた夢のことよ」
青田坊と燈影の言葉に、玉章は眉を潜める。
「玉章…、てめぇの言うその“畏れ”、オレたちはテメェのどこに感じろってんだ…?」
よろり、とリクオは刀を支えにしてゆっくりと起き上がる。朝になりかけているが故に、リクオの身体から煙が出て、人間に戻ろうとしていた。
「てめーは刀におどらされてるだけで、てめー自身は…器じゃねーんだよ」
リクオはぐらりと体制を崩してしまい、膝をついた。が、意思は変わらず、ただ玉章に向かって言った。
「ボクがおじーちゃんや父さんに感じた気持ちは、怖さとは違う…。強くで…カッコよくて、でもどこかにくめない、だからみんなついてゆく…。“あこがれ”なんだよ、畏れ…ってのは」
「!!」
リクオの一人称を聞き、夜と昼の血が混ざっていることに気づく。そろそろ、時間がないことに気がつく。
「そんなじーちゃんが、父さんが作ったこの奴良組、カラス天狗がいて…、牛鬼が…みんながいるこの組を、守りたいんだ。姉さんがボクを守るっていってくれたように、ボクも、姉さんが大好きだったこの組を守りたいんだ…!!」
「リク、ォ……」
空耳だろうか?あたしの名前が、リクオの言葉から聞こえた。それは一瞬のことで、
「ボクは気付いた、それが百鬼夜行を背負うということだ!仲間をおろそかにする奴の畏れなんて、誰も…ついていきゃしねーんだよ!」
「だまれ」
リクオの言葉を聞いていた玉章が、リクオを思い切り斬りつけた。
――はずだった。
「あ?」
「!!?」
リクオの胴体は半分になっている。そう、認識された。
「まさか……!!」
だが、どこか現実味がない。終止符を打つという直前に、リクオはぬらりひょんの新たな力を発動していた。
“鏡花水月”
ぬらりひょんだから、飄々とした妖怪だからこそ、その“畏れ”は発動する。相手の認識をずらす技。
玉章の腕がリクオによって切り落とされた。
魔王の小槌
(空が明るくなるにつれて、彼は人間へと戻っていく)
(守るんだ。姉さんが出来なかったことを、ボクが変わりに、姉さんの気持ちを無駄にしないために)
(そんなみなが見守っていく中、それは起こったのだった)
(ッ…!!)
(終止符は、まだつかれていなかった)
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