影と日の恋綴り | ナノ
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -

 弟を見守る

リクオによってお面を欠けられた玉章の瞳はあたし達に見えることが出来た。けど、その目は″狂気″の眼差しだった。それはあたしにとっては“恐怖”の対象でしかなかった。

「うはぁ…」

ゆらさんは、玉章に恐れを抱き、逃げ腰になる。

「陰陽師のくせにビビってんじゃねーよ。てめーは人間の世話にまわれ!」
「うう…わ、わかった…」

ゆらさんは、リクオの言葉を素直に聞き入れた。いや、本当は内心お前を倒すのは私だとか言ってそうだけど、今この状況じゃいえないもんね……。ちょっとは空気を読んでいるようだった。

「相変わらずですね、ゆらさん…」
「!?…緋真ちゃん……!!?」

思わず笑い言えば彼女はあたしの存在に気がついた。ゆらさんはバッとあたしに目を向けて、驚愕した。まぁ、縄で縛られていたら誰でも驚くか。いや、それだけじゃないのかもしれない。
わかりやすい彼女の反応に苦笑を零しらゆらさんを見る。するとゆらさんは慌ててあたしの傍によって来てくれた。

「ど、どないしたんや!?学校にも来てなかったし、それにその恰好は…!!?」
「ちょっと、ね…」

やんわり、と笑みを浮かべればゆらさんは眉をひそめてそのままあたしを縛っていた縄を解いてくれた。おかげ様で腕の痛みがいっきになくなった。
手首を回して痛みを確認する。とはいっても、全身打撲だらけで痛いけれど。そんなあたしの姿を見てゆらさんはまるで自分が負ったかのように顔を歪める。優しい彼女に心配しないでと言うように笑顔を浮かべて、彼女にお礼を言った。

「ありがとうございます…」
「緋真ちゃん、あんたはさっさと帰りぃ。此処は危険や!」
「………」

ゆらさんの言葉は一理ある。けど、それでもあたしは…、

「…あたしは、少し此処に居たいのです」

じっと、ゆらさんではなくてゆらさんの向こうで玉章と戦っている弟の姿を瞳に写す。必死に戦うその姿。
成長している弟の姿が嬉しくて仕方がない。

「緋真ちゃん…?」
「…あの人から、人間のほうは任せたといわれたのでしょう?早く行ってみては?」
「せ、せやけど…」
「大丈夫」

しぶるゆらさんにあたしは無言で彼女を見つめる。あたしの目に諦めがついたのか、ゆらさんはハァ、と溜息を零して「これでも持っときぃ!」と護符を渡された。そのままゆらさんは颯爽と去って野次馬達の方に向かったのだった。

「…大丈夫ですよ、ゆらさん」

ただ、弟の勇姿を見るだけなのですから。
その言葉を心の中で言って、あたしはリクオの方へと目を向けた。再びリクオは玉章に立ち向かっていた。だが、玉章は今や、刀の力で妖怪たちの力を吸い上げた。
簡単に言えば“百鬼をまとう妖怪”になった。
玉章は姿形はもはやリクオより大きくなり、妖気も半端ではない。リクオは、簡単に玉章に投げ飛ばされた。

「ぐっ…」
「…!!」

苦しげな呻き声に、あたしは悲しくなった。非力な己を、これほど憎いと思ったことはない。リクオを気遣い、燈影や首無やつららが玉章に立ち向かおうとするが、それをリクオが止める。

「若!?」
「大将は…体を張ってこそだろ」

そう言って、リクオは再び玉章に立ち向かう。
怪我をして欲しくない。
そう思うが、力の差は圧倒的でいとも容易く怪我を負わされる。リクオは何度も何度も、玉章に斬られ、投げられ、体はボロボロだった。

prev / next