影と日の恋綴り | ナノ
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 “畏れ”とは

瞬間的に震え上がってしまった自分を叱咤するように、ゆらさんは己が陰陽師として何をすべきなのかを頭に叩き込み、おぞましい妖気を放つ妖怪の前に立つ。

「っ…(倒さな……私がやらんと……)」

人目につく場所でこのような凄まじい妖気を発すれば、当然鈍い人間であろうとも気付いてしまう。

「お!!何かいる!!」
「ゲェー何あいつー!?」
「妖怪じゃねー!?」
「うそっ…恐いー!!」

野次馬達が何事かと騒ぎ喚き声を上げる。お前達を気に掛ける余裕なんてないから、さっさと逃げればいいものを…!

「(こいつを放っておいたら…大変なことになる)」

妖怪を目にして騒ぐ人々に、ゆらは焦燥を感じて前に出た。
嗚呼、馬鹿は程ほどにしてよ…!!

「ッ…!ゆらさんッ、逃げてっ!!!」
「(これ以上、暴れさせるわけにはいかん!!)待て!!そこの妖怪!!人を害する事はこの私が許さへんで!!」

自分は花開院流陰陽術の後継ぎである、という自負と誇りを胸に、全ての式神を顕現させたゆらさん。その思いは流石だと、評しましょう。
だけど、

「え」

一閃だった。たった一振りで強力な式神たちを打ち消されたゆらさんは目の前にある現実を認められず、呆然と出現したはずの式神たちの姿を追い求めた。
呆然となるしかなかった。

「え…?たんろ、どこ…?」

そんなゆらの口内に、生物じみた身の毛もよだつ刀の切っ先が突っ込まれる。

「何の…つもりだ…?」

ん…?といたぶるように刀を突き付ける妖怪を前にして、ゆらの精神は恐怖で限界ギリギリの瀬戸際に立たされた。

「ゆらさんッ!!」
「はっ…は、えっ…!?あぐっ…!!」

刀を口の中に押し入れられ、グロテスクなものが刀から自身の口へと進入しようとする。ゆっくりと、ゆらさんに死が迫ろうとしていた。そして、彼女自身もそれに気付き迫る死の恐怖に身体が動くこともできず、ただただ玉章を“畏れ”たのだった。
瞬間だった。

「ッ!!」

闇を断つは一閃の煌めき。たなびくは白銀の髪。
それはグロテスクな刀を弾くと同時に玉章の面を叩き割った。

「ぁ…」

リクオがゆらさんを助けたのだった。

「おっ…お前は…妖怪の主!!なんでここに!?」

ゆらさんは、突然リクオが自分を助けたことに驚いていた。
まぁ、妖怪に助けられるなんて嫌だからね…。仕方のないことなのだろう。

「…玉章。それがてめぇの百鬼夜行だ………ってのかい」

リクオが袮々切丸を構え直して聞いた。その際に、ゆらさんはリクオの背後から見えてしまったのだった。玉章の背後に見える無数の妖怪たちの怨念が。
一瞬で寒気が走った。

「そうだよ…リクオ君…。素敵だろう?ボクの…百鬼夜行は…」
「魑魅魍魎の主ってのは、骸を背負う輩のことじゃねーんだよ!!」

玉章が考えとする“百鬼夜行”
リクオが考えとする“百鬼夜行”
どちらが正しいだなんて、目に見えている。口で言うのは容易い。けど、それを相手に伝えるのは刃を交えてでしかない。
そして再び、玉章の“畏れ”とリクオの“畏れ”がぶつかり合う。

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