▼ いじめだめ絶対
(カカシside)
気付けば、彼の姿はどこにも見当たらなかった。
「え…ちょ…、カケルさん何処に行ったの!?」
「えぇ!?」
他のヒーロー事務所と一緒に敵と交戦中にふと周りに目を向けても、カケルさんの姿はなかった。戦いの最中だというのに悠長に何してんだと、あの頃なら怒られるかもしれないが、この時代なら問題なかった。
「ちょっと、アンタ!?」
「待って、本当に破軍は何処行ったのサ!」
「分かりません。見る限り、いませんね」
「冷静に言わない、で!」
「(嘘…、こいつら呑気に会話続けながら戦ってる…!?)」
他のヒーローが驚いているのが伝わってくる。でも、あの悲惨な戦争を生き抜いた俺達にとって、こんな事は日常の一つに思えた。むしろ、平和すぎて感覚が鈍るほどで、ヒーローらしからぬ思考が産まれてしまうくらいだ。
「全く…どこで何してるんだか……」
「破軍さんの事は後にしておきましょう。彼一人でも問題ないはずです」
「ま!そーだね」
呆れた声でそういうデンゾウや、冷静にそう言ったイタチくん。カケルさんの事を分かっているからこそそう言えるだけで、もし普通の子だったら何が何でも助けに行くつもりだ。いや、そもそも怖くて動けないかもしれない。
「ま、いーや。とにかく、さっさとこの敵を倒して帰ろう」
「そうですね」
「簡単に言いますけど、そう上手くできますか…?」
ツゥー、と冷や汗を垂らしたデンゾウが向ける先には、先ほどから何度も攻撃を与えているはずの敵。攻撃を吸収する個性でもあるのか、倒れる事を知らない。
「面倒だね…どーも」
これは骨が折れる仕事だ。
(カカシside終)
後ろの方でドンパチが起きている中、俺は真っ直ぐ画面に映し出された位置情報のもとへ向かう。けど、下から向かうんじゃなかったと密かに後悔する。逃げ惑う人達が俺の行こうとする場所を阻んでくる。
だが、時間ロスするわけにはいかない。
「(どういう意味で送ったかどうかは知らねぇが、嫌な予感だけは当たるんだよ…!)」
カカシ達がわざわざ此処へ赴いたのも、此処で戦闘が起きているのも、そして緑谷がわざわざこの近くの位置情報をクラスLINEのグループに送ったのも、全部、ヒーロー殺しなんだ。カカシ達も事前に調べていたが、ヒーロー殺しは同じ場所で複数回ヒーローを襲撃している。まだインゲニウムっていうヒーロー一人しか襲撃されていない此処保須市。つまり、再び犯行が此処で行われるという事だ。
そして今、起きようとしている。
「くっそ、邪魔だな…!」
苛立ち、黒弦を使ってビルの上から向かうことにした。下で一般人が「今子供がー」とかなんとか言っているが無視だ。逃げて安全なところへ行っている間は大丈夫だから心配すんな、と内心言いかけて俺は現在地と位置情報を照らし合わせる。
もうすぐ近くだった。
「(ヒーロー殺しは路地裏でって言っていたが…まさか本当に路地裏だったとは……)」
その時だった。
視界の端で赤い燃え盛るような炎が映った。バッと弾くようにそっちへ見れば、位置情報の場所とほぼ同じ場所だった。
あそこか。
「考えてる暇はねぇ…!」
瞬歩を駆使して一秒でも早く彼らのもとへ。
今の炎は恐らく轟だろう。爆豪は爆破だから、あんな火力は持ってなかったはずだ。他の正式なヒーローかもしれないっていう線もあるが、今騒ぎになっているのは脳無だ。多くのヒーローはそっちに向かっていると見てもいいだろう。けど、なんで轟がいるのか不思議だが、それに頭を使うつもりは毛頭も無かった。
飛んでは走りと今まで以上に瞬歩を使った俺が、目的地に到着し飛び降りたその時だった。
「やめて欲しいなら立て!!」
「!」
轟が怒鳴るような声を張り上げた。
目下へ向ければ、横たわる者が三人。そしてその三人を守るようにして立っているのは…。
「なりてぇもん、ちゃんと見ろ!!」
やっぱり、轟だった。
そして轟と対峙しているのは、言わずとも分かる。
あれが、ヒーロー殺し・ステイン。
「………弦術・“殺取”」
「!」
髪を一瞬で黒弦に変えた俺の気配に気付いたのか、轟を標的にしていた刃が一瞬止まった。その隙を逃すわけにはいかなかった。
「“蛇行刃”!」
黒弦の硬度を最大にし轟に向かって振り下ろされた刃を弾かせた。その硬度に、刃のほうが負けたようで刀身だけが後ろへと飛んでいった。
目を瞠る轟に、そして倒れたままの同級生たち。
「よぉ」
壁に設置されたパイプや窓、屋上の手すりに黒弦を引っかけたまま俺は逆さで彼らに挨拶をした。ハッと弾くように真っ先に反応を見せたのは轟達。そして鬱陶しいとでも言わんばかりの眼差しを向けるのは、件の敵。
「弱い者いじめは、楽しいですか?」
誰に向けての言葉など、言わなくても分かるだろう。
俺の登場に小さく息を吐いたのは轟だけじゃなかった。パァ、と顔を明らめたのは、あの位置情報を上げた送り主。
「蒼天くん!!」
緑谷が嬉しそうに俺の名前を口にした。
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