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「#幼馴染」のBL小説を読む
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「…うわ」

保須市の中心街、駅前広場で騒動が起きた事に気付いたカカシ先生達を追って向かった先は、甚大なものだった。
目の前が真っ赤だった。
車が横転し、ガソリンに火が点いて辺りを炎の海に化そうとしていた。焦げた匂いが充満して、思わず鼻を腕で覆った。被害状況を理解しようとした俺だったが、俺よりも矢の如く射る声が届いた。

「カケル!!」
「!」

ハッと弾かれたように呼ばれた方に目を向ければ、既視感を覚える光景が。

「消さんッ!!」

多くのヒーローを紙っぺらのように投げ飛ばし払いのけるそいつを俺は脳裏に焼き付いていた。いつまで経っても消えるはずのない存在。何度も立ち上がり捕縛しようとするヒーローがその度に地に叩き伏せられる。
脳無。
そう呼ぶ存在を俺は知っている。

「消さん!!!!」

その姿が、消さんと重なって見えた。

「カケル、しっかりするんだ!」
「!…ぁ、カカ、シ……」
「ひとまず市民の保護をするんだ!決して手を出すな!」

真剣な表情はいつ振りか。すぐそばで戦闘態勢に入っているイタチもヤマト隊長も久しぶりにみる顔面だった。
ああ、今此処は、本当に危ないんだ。

「っ、分かった!」

気が乱れたけれど、今俺がすべき事を理解したからすぐに動けた。突然の敵の暴走に腰を抜かした一般人を被害が受けない場所へと誘導する。怪我をした人は障らないように抱えてより安全な場所へ。

「アンタ達は…!?」
「君達と同じヒーローだ。さ!今は俺達の事より、敵だけを見ろ!」
「カカシさん、いつでもいけます」
「こっちもです」
「よし!標的は敵二体。倒すなよ、捕縛だ。散!」

俺の背後でカカシ先生が中心にイタチとヤマト隊長とスリーマンセルで動いたのが分かった。保須市でヒーロー活動する人達が驚いていたけど、彼らの戦闘能力、戦い方を頼もしく思えたようでサポートに徹した。
俺もちゃんと自分が出来る事をしねぇと。
母親とはぐれた少女が恐怖に泣き叫ぶ声が聞こえた。どこから、と周りを見れば瓦礫のすぐそばだった。その瓦礫の下にはぐったりとしている少女の母親であろう人物が。血の気が引いた。急いで向かい、少女に声を掛けた。

「もう大丈夫。兄ちゃんが助けるよ」
「で、も!おかあさ、お母さんが…!」
「大丈夫。…そんな顔しないで」

ぽん、と落ち着かせるために何度か頭を優しく撫でると彼女は泣き止んでくれた。それに安心しながらも、彼女の母親の容態を見る。脈拍を測れば、まだ正常に動いていた。
良かった、まだ生きてる…。

「お嬢ちゃん、ちょっと待ってて。お母さんはちゃんと助けるから」
「ほ、ほんと…?」
「おう。これでも兄ちゃんは、ヒーロー志望だからな!」

ニッと笑って言えば、安心したのかゆるりと笑ってくれた。それを見た俺は、彼女を少し離れるように言ってお母さんの手を握り声を掛けた。小さな声だが、まだ意識はあるようで手は握ってくれた。それにまた安堵して、俺は彼女を下敷きにしている瓦礫に手をついた。

「……破!」

一点を点いて拳を振るった。瞬間、粉々になった瓦礫はパラパラと点いた先へ吹き飛んだ。これで彼女に圧し掛かる瓦礫を駆除できたが、下側の瓦礫を破壊したことによって上から再び落ちて来そうになった。そうなる前に、母親を助けて楽な体勢にして少女と共に安全な場所へ移動した。
誰かが呼んだであろう救急車が何台か到着していた。

「お嬢ちゃん、もう大丈夫だよ」
「っうん、うん…!」

ボロボロ涙を溢す少女。母親が助かった事により恐怖よりも安心が勝ったようだ。俺も彼女を一人ぼっちにしなくて済むと思うと安心した。
でも、もう泣いちゃ駄目。

「女の子は、笑顔でいてよ」

ニコリ、と笑いかけると、少女は不器用ながらにも笑顔を俺に見せてくれた。
そうそう、女の子は笑顔が一番だよ。
救急隊員に少女と母親を共に引き渡して、俺は再び戦闘が起きている場所へ向かおうとした。しかし、俺を呼び止める声が。振り返って見れば、少女だった。

「お兄ちゃ、お名前は…なんて言うの…?」

キラキラとした目は憧れをしたものだった。
一度本名を言おうとして口を開けた。しかし、彼女が求めているのは違う、と瞬時に分かった。
彼女が求めているのは……。

「…俺の名は“破軍”だよ、お嬢ちゃん」

自分や母親を助けてくれたヒーローの名前。
小さな声で復唱した少女に「またな」とぽん、と頭を撫でた俺は瞬歩でその場を後にした。
戦いの場となった駅前広場に戻れば、カカシ先生達を中心に敵を、脳無を捕縛しようと必死になっていた。USJ襲撃事件と同じなようでそうじゃない脳無らしき敵二体はカカシ先生達の攻撃に痛みを上げる事もなく攻撃を仕掛けてくる。

「っ……」

俺も何かすべきか。
そう思って手裏剣ポーチから黒弦を取り出そうと手を入れた時だった。

「!」

スマホが震えた。
こんな時に誰から、と思いながらも手はスマホを取り出していた。無料通話アプリで、一枚の画像が送信されていた。
差出人は緑谷。

「……これ、は」

送信された画像は位置情報を知らせるもの。しかもしれは、保須市内のもので俺がいる場所からそう遠くないところだった。

「………まさか」

嫌な予感がした。
カカシ先生達に言うべきだろう。けれど、俺の相手をしている隙を狙われたら、消さんみたいになるかもしれない。カカシ先生達がそんな凡ミスをするとは思えないが、二度もあんな悲惨な光景を俺が見たくない。

「(悪い、カカシ……!)」

ヒーローとしてこの判断は間違っていると思う。けれど、放っておくわけにはいかなかった。
無言でカカシ達を見てから俺は一瞬でその場を去った。

「(……死ぬなよ、緑谷…!)」

目指すは、とある路地裏。
この騒動の裏で働いているであろうヒーロー殺しの元。

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