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「#幼馴染」のBL小説を読む
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▼ 保須市に行こう

職場体験が始まってから三日目。
初日と二日目は、カカシ先生たちに引率をしてもらいながら市中の見回りをした。東京の池袋は俺が元いた世界と同じで、繁華街。多くの人達が行き交う場所は、小さな犯罪から大きな犯罪まで発生率が高い。もはや日常茶飯事でもある。
二日目には見回り中に殺傷事件が発生して、カカシ先生達が敵を捕縛する間に俺が避難誘導をしたりしてサポートした。仲間を置いて逃げようとした敵を黒弦で捕えて、敵捕縛に貢献した。

「カケルさんと一緒に活動すると、やはり昔を思い出しますね」

なんて、嬉しそうに言ったイタチ。カカシ先生もヤマト隊長も同じことを思ったのか頷いた。
そんなもんなんかねぇ。
なんだか照れ臭くて、上手く言葉を口に出来なかった。
職場体験中の俺の一日の動きは、朝出勤したら午前中は交代で見回りに参加。昼食を挟んで、午後はカカシ先生たちと手合わせしたりして修行を見てもらったり、夕方は再び見回りをする。
そんな感じで一週間を過ごすようにカカシ先生に言われた。夜はヤマト隊長がバーを開店するが副業を手伝わなくてもいいって言われて八時以降には自由時間を与えてくれた。
なんてホワイトなんだ。
そんな自由時間は、職場体験日誌を書いたり、あとは消さんにメールを送ってちゃんとした飯を食ってるかを確認したりした。初日はゼリー飲料を食べてたってマイクさんから連絡を貰って、二日目はマイクさんが誘って居酒屋でご飯を食べたという。
ゼリー飲料を食べた分だけ何か罰ゲームしてやろうか。

「ちゃんとした飯を食えってのに、アホ澤さんめ…」

本人がいないことを言いことに悪口を口にした。
そんな感じで三日目になった日、カカシ先生はある資料を手にしたまま何か考え事をしていた。朝食中でもあって、全員が揃う時間。普通に気になったのか、イタチが声を掛けた。

「何の資料ですか、それ…」
「ん?あぁ…ヒーロー殺しについてだよ」
「ヒーロー殺しの……。どうしてその資料を、カカシ先輩が?」
「ん?ちょっと、気になってね」

食事中でもあってか、口布を外しているカカシ先生。しかし、俺達に見られたくないようで資料で口元を隠していた。
イタチ曰く、いつも一緒に食べているはずなのに口元は見えないらしい。どういうこっちゃ。

「ついこの間は、保須市で事件があったんですよね…」
「あぁ。一人、ヒーロー活動をやめざるを得ないほどの重傷を負ってね」
「……そのヒーロー、俺の同級生の兄貴だよ」

カカシ先生の言葉にそう言えば、彼はコクリ、と一つ頷いた。そして資料に視線を戻して続けた。

「ヒーロー殺しの出現確率として、まだ保須市で事件を起こす可能性は高い。同じ場所で四人以上のヒーローに危害を加えている。…保須市じゃ、まだインゲニウムしか襲われていない」
「そうなると、まだこれから保須市で起きる」
「あぁ」

そう言ってカカシ先生は資料を机に置いた。
ということは、今カカシ先生の口元を覆うものはない。

「!」

イタチやヤマト隊長も思っていたことは同じようで、バッとカカシ先生を見るが…。

「ん?なに、どーかした?」

すでに奴は口布を装着していた。
なんでそんなに早いんだよ!!
頑なに見せないなぁ、と肩を落としながら「何でもないです…」と言う。イタチとヤマト隊長は素顔が見れなかったことに残念がっているが、すでに片付けとか始めていた。
そんな俺達にカカシ先生は笑って言った。

「というわけで、保須市に行ってみるか」
「え?」
「は」
「……はぁ?」

思い立ったが吉日、とでも言うのか、カカシ先生は楽観視した言い方だった。
突然すぎる指示に俺達は戸惑うだけだった。

***

しかし、有言実行するのがカカシ先生というもの。

「来ちゃったよ保須市……」

夕方。
午前中は池袋の巡察をして、午後には池袋を後にした。時間もかからず、あっという間に着いた件の場所である保須市。一応、市に出張届は出したから此処でヒーロー活動をしても問題はないらしい。
そして、俺達はヒーローコスチュームを身に纏い市街地を巡察し始めた。

「あれ…今日は気配を絶たないんですね」

ふと、三人の気配が消えない事に疑問を抱きつい口にした。すれ違う人達は、カカシ先生達を見て足を止めて見ていた。ヒーローだと分かっているようだが、カカシ先生を今まで見た事がないから不思議に思っているのだろう。
いつもなら、カカシ先生達は自分達の気配を消して人ごみに紛れている。それは敵が油断をするからだ。ヒーローがいないところでわざわざ事件を起こすはずがない。いないと確認したから起こそうとするのだ。事件は起きる前に解決するほうがいい。悪さをしようとする敵が油断している時に、カカシ先生達は敵を捕縛する。だからこそ、未発生での敵捕獲がトップヒーローたちに勝るほどの貢献度が高い。
それに、メディアで取り上げられる事もなく警察に引き渡しが出来るからそのほうが自分達に合っていると。
なのに、今日は違った。

「あぁ、ここは池袋じゃないからね。ヒーロー殺しで騒ぎが起きたとしても、他のヒーローのサポートでもすればメディアに取り上げられることはないよ」
「ふーん……」

しかし、普段姿を見せないカカシ先生達だから、取り上げられそうだけど。
なんて、言えるはずもなく俺は三人の後を追った。

「今のところ、事件は起きてなさそうだね」
「えぇ。けど、あの資料を見ましたが…ヒーロー殺しで怪我を負わされた人達は……」

うっすらとした雲の流れが早い。まだ夕暮れ時だというのに、太陽が雲に隠れているせいか街は薄暗い。西日はオレンジではなく真っ赤な色で、どこか薄気味悪い。

「路地裏で見つかることが多い、デショ。…うーん、となると、やっぱり虱潰しに探すしかないか…」

それって面倒なんだよなぁ、と愚痴を溢すカカシ先生。ヒーローが面倒臭がるなよ、と言おうとしたその時。
ドンッ!と地響きを起こすほどの衝撃の強い音が轟いた。

「!」
「なんだ…?」

すぐ近くで起きている事は明白だった。西の方から人々が、必死な形相で逃げてくる。理解が出来ていない様子だったが、周りが慌て始めてそれが伝染する。
状況把握しようにも、高層ビルが連なっているため遠くの様子が見えない。さてどうしようか、と思っているとカカシ先生に呼ばれた。

「遅れるなよ!」
「え、ちょ!?」

三人は忍と顔となって流れの元へと向かった。いきなり呼ばれたかと思えば、そんな事言われてすぐ動けるわけないだろ!俺まだ高校生!
ま、そんなの言い訳にしか聞こえないか。

「ったく、現役とはいえねぇんだからな…!」

忍の動きで爆破音がした場所へ向かう三人に俺は笑い、後を追った。

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