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▼ 相澤とカカシ

(カカシside)

カケルを職場体験で指名しようと書類を送った翌日の事だった。普段滅多に鳴らない電話が事務所内に響き渡った。その時、事務所にいたのは俺だけだった。イタチは区内の見回りに出て、テンゾウは一階のバーの準備をしていた。
珍しいものだ、と思いながら出れば、懐かしい声の主。

“珍しいな”
「…開口一番になんなのよ…。何がだい?相澤くん」

かれこれ十数年は会っていない同級生。けどクラスは違う。
ただ、よく体育祭やらで対戦していた。
相澤くんは相変わらずの仏頂面で言っているのだろうか、なんて電話相手にバレないように笑った。俺の様子に気付いていない相澤くんは言った。

“滅多にメディアに出ない火影が、雄英生を指名するとはな”
「……そう?ま!あの子が気になっただけダヨ」

相澤くんがそんなことを聞いてくるとは思わなかった俺は、すぐ答えることが出来なかった。相手も気付いているはずなのに、あえて聞いてこないのは俺を怪しんでいるからだろうか。
体育祭でのカケルの戦い方を思い出す。あの頃と変わらない戦い方に、俺やイタチたちはカケルは、カケルさんは前世の記憶を持っていると認識していた。自分の個性の使い方、そして危険性を理解した上での戦いぶり。カケルと戦った相手が挑発めいた時に、ヒーローをも恐れさせた殺気を溢したのは驚いたけど。
こんな非現実的な世界で、俺達以外に会えるならどんな機会でも狙って会いたいものだ。

「体育祭であんな戦い方をした子だから、どんな子かもっと知りたいなぁって満場一致で決まったの」
“………”
「?相澤くーん…?」

無反応の相澤くん。電波の調子が悪いのかと思って、彼の名前を呼ぶ。しかし、雑音も入っていないから電波は良好だ。
しばらく経って、相澤くんは口を開けた。

“…一年の体育祭の後に行うヒーロー情報学で行うヒーロー名考案の時間、お前は覚えているか?”
「え。あぁ、うん。生徒が一番盛り上がる時間だったよね、あれ」

突然そんな事を言う相澤くんに戸惑いつつも答えると、「今年の一年も同じだ」という。ま、普段はヒーロー情報学ってのは眠たい内容だから仕方ないかもしれない。

“ヒーロー名考案の時、アイツは“火影”にしようとしていた”
「!…へぇ……」

それには驚くものがあった。
まさか、カケルがあの名をヒーロー名にしようとするなんて。
なんとなく嬉しい気持ちがこみ上げてきて、人知れず笑った。けど、相澤くんは俺達の事情を知っているわけじゃない。納得していない声で俺に聞いてきた。

“だが、アイツはお前の事を知っている様子じゃあなかった。……お前ら、いつアイツと関わった”
「………」

学生の頃の相澤くんを思い出せば、今の彼の言葉には耳を疑った。
どうしてそこまでカケルを気にするのだろうか。カケルの担任だとは思う。雄英高校襲撃事件で、彼は生徒を守り重傷を負ったと聞く。その生徒の一人がカケルだとなれば、ここまで聞いてくるのは合点がいくような、いかないような、微妙なラインだ。

「……相澤くんって、そこまで生徒に干渉してたっけ?」

思わず質問を質問で返してしまうのは無理もない事だった。

“お前らは謎が多すぎるんだよ。疑っちまうのも無理ねーだろ”
「………」

教師と生徒、それだけの関係ではないように見えた。

「……昔に、ネ。あの子がまだ幼い頃、助けたことがあるんだよ」
“……一方的に知ってる、てか”
「うん、ま、そんな感じかな」
“…………”

納得してなさそうなのが電話越しに伝わってきた。前世の仲間だったんです、なんて相澤くんに言ったとしても信じるはずがないじゃない。
それ以上の詮索はしないようで、相澤くんは教師として“蒼天カケル指名を受理する”と言って電話を切った。
ツーツー、と無機質な音が事務所内に響き渡る。

「………俺としては、君とカケルの関係が気になるんだけどネ」

しかし、相澤くんは絶対に教えてくれないだろう。
そうして日は過ぎていき、職場体験開始日。カケルさんを迎えに行って、事務所で顔合わせをしてから、つい相澤くんとの関係を尋ねてみた。
第七班の彼の上司として。

「相澤くんとは知り合いなのか?」

聞いた瞬間、カケルの気が一瞬だけ乱れた。気のせいかと思えるほどの一瞬だったが、俺は見抜けた。

「まぁ、相澤先生は俺の担任ですからね」
「…そう、ですか……」

それ以上言うつもりはない、と言わんばかりの答えに俺はそう返すことしかできなかった。
やっぱりただの教師と生徒という関係には見えなかった。もっと違う繋がりがあるように思える。けど、カケルが言わないなら、これ以上言及しないほうがいいのだろう。

「(…まだ、ダメみたいだな……)」

カケルの様子から分かったことが一つあった。
この子はまだ、他人を信じていないってことが。

「(なーんか、嫌な予感がするなぁ……)」

無意識にため息がこぼれた。

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