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▼ 置いてけぼりのカケル

突然暴れ出した敵は放置のまま、俺たちはその場を後にした。男について行くまま向かったのは、通りから少し離れた路地裏の一角にあるバーだった。人通りはあまりなく、昼でも夜でも変わらないほど薄暗い場所で、あまり儲かってもなさそうに見えた。
俺の前を歩くそいつをじっと見つめた。

「(……どういうことだ)」

今まで会うことなど無かったのに、なんで今さら。
そう思うほど、そいつとの出会いは突然すぎるものだった。あの頃と変わらない飄々とした態度。フラフラと歩く姿は、なんら変わりないものだった。

「はい、ここね」
「………」

カラン、とドアを開けた瞬間に鳴り響いたベル。お客を知らせるものだが、あいにく俺はお客ではない。それに、今は営業時間外だから、店内は薄暗く、イスなどは片付けられていた。
此処が、木ノ葉ヒーロー事務所か。
本当に事務所なのかどうか疑いたくなるような薄気味悪い場所に、俺は警戒心を強くした。そんな俺に気付いているにも拘わらず、男は「こっちに来てくれるかい」と言って、奥の方へと案内した。
一つドアを隔てたその向こうは、店の方とはまるで嘘のようなものだった。

「(……綺麗な空間だな)」

清潔感溢れる室内。仕事関係のものは全て整理整頓もされていて、汚くしている様子はなかった。
消さんとは全然違うな。
思わず比べてしまうのも無理もなかった話だった。

「あれ、もう来ちゃったんですか?」
「!」
「予定より早いですね。驚きました」
「!?」
「ま!流石は雄英の生徒ってところかな?」
「………」

背後から聞こえた会話に、俺は何度も反応してしまった。ひどく久しぶりに聞いた声を、忘れるはずがなかった。忘れるわけがなかった。
胸が轟くように躍るのは、期待しているからだろうか。
こみ上げてくるそれを止めることは出来なかった。

「…っ……」

ゆっくりと、後ろを振り返る。

「―――っ」

彼らを視界に映した一瞬、呼吸が止まった。
じわりと胸の奥から何かが溢れ出そうになって、身体が震え、鼻の奥がツンと痛んだ。
こんなことって、あるのだろうか。

「(カカシ先生…イタチ、ヤマト隊長……)」

あの頃と変わりない姿。
下忍、中忍時代にお世話になり、暗部で一緒に組んだ人達。助けたかった人、助けたいと思った人。俺を、助けてくれた人たち。
世界が違っているというのに会えるなんて、誰が思っていたことだろうか。
くしゃり、と歪んだ顔を見せまいと思わず顔を俯かせた。声を掛けそうになったが、ふと思う。

「(アイツ等は、記憶が持ってるのか…?)」

衝動的に彼らの名前を呼ぼうとした口を一度閉ざした。冷静になった頭の中では、予想外の事態を想定した。もし、彼らは記憶がないまま転生していたとしたら、俺を怪しむはずだ。消さんが言ってた通り、メディア嫌いなら尚更自分達の事を知っている人なんていないはずだから。
昂ったまま彼らに声を掛けようとした俺だったが、冷静になって、そのまま挨拶をした。
覚えていようがいまいが、俺が此処に来たのは職場体験なのだから。

「雄英高校から来ました、ヒーロー科一年の蒼天カケルです。一週間、よろしくお願いしま、」
「ブフォッ」

刹那、音が止んだ。

「……ぇ?」

頭を下げて挨拶をしていたはずだったのに、どこからか聞こえた、噴きだすような笑い。俺の言葉を遮ったその笑いに目を点にしたのは言うまでもない。
ゆっくりと、何が起きたのかと顔を上げると…。

「クッ……フフッ、…フッ…!」

顔面九割隠している野郎が、小刻みに身体を震わせていた。
ヒクリ、と口元が引きつった。そして突然笑い出したそいつに呆れたようにため息を溢したのは、後輩二人。

「……先輩…」
「なに笑っているんですか…」
「ぃ、いや…うん、ごめん…!ホント、…やっぱり我慢、できなかった…クッ…!」
「………」

相変わらずマスクをし、その上から手で押さえて笑いを必死に堪えようとする男。しかし、全くもって堪えきれていないし、笑いはまだ続いていた。

「うん、やっぱり無理だった…」
「耐えてくださいよ、先輩」
「いやー、参ったね、どーも…」
「……」
「白い目で見てますけど」
「ぁ、いや、うん…ホントにごめんって」

俺を置いて三人で話し始める始末。
なるほど、そういうことか。
フッと、鼻で笑った俺は顔を俯かせた。そして静かに足音を立てずにそいつの背後に歩み寄った。後輩二人は俺の様子に気付き、声に出さずあーあ、なんて口パクをして静かにソイツから離れた。
よく分かってんじゃねーか、お前ら。

「オイ」
「ッ!!」

思った以上に低い声が出た。俺の気配に気付かなかったのか、硬直したそいつ。ギギギ、とまるで錆びたブリキみてぇに振り返ったソイツは俺を見て顔面蒼白となった。
今更遅いんだよ。

「どういう事か、説明してもらえますよねぇ…?」
「ぇ、あ…いや、その…」
「俺が律儀に挨拶しようとしたってのに、遮って笑うなんざ…どういう態度だオイ」
「そ、それはその…!が、我慢できなくなったというか…その…!」
「なぁ」
「ハイ」

言い訳なんざ聞きたくもない。聞くわけねぇだろ。常に答えしか求めてねぇってのに、今更言い訳言う奴になったのかお前は。
幾分か俺より背が高いそいつを見上げて、にっこり笑って見せた。

「いっぺん、死ぬか?畑のカカシさんよ」
「すみませんでした!!!!」

殺気を込めて言った瞬間、土下座をしたのは、間違いなく、正真正銘、俺ら第七班の先生でもあった、はたけカカシだった。

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