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▼ 決めた職場体験先

その日の夜の事だった。先に帰宅した俺は、課題を終わらせていつも通り晩飯を作って、風呂を沸かした。しばらくして消さんも帰宅して、先に風呂に入らせてから一緒に夕食をとる。夕食を終えたら、消さんはまだ仕事が残っているからリビングで作業を始め、その間に俺は皿を洗ったり風呂に入ったりする。俺が風呂に上がったら、合わせたわけじゃないけど少しだけのくつろぎタイムになる。
とは言っても、消さんはまだ仕事中で、俺は今日貰ったヒーロー事務所がたくさん並んでいるリストをただ眺めていた。

「なぁ、消さん」
「なんだ」

俺には一瞥もくれず、作業を続ける消さん。それがなんだかつまらないと感じつつ、俺は昼間に見つけたそれを眺めながら聞いた。

「“火影”ってヒーロー、どんな人なの?」
「………」

消さんの手が止まった。ガラステーブルで作業する消さんの背後にあるソファでくつろぐ俺には丸分かりで、動きを止めた消さんに首を傾げた。くるり、と無言で俺の方に目を向けた消さんは、ため息を溢してから立ち上がりわざわざ俺の隣に座った。
重みで一瞬、浮き沈んだ。

「気になってんのか」
「まぁ…。“火影”って名前、あんまり使われないって思ってたからさ……」
「………」

少しだけ疑うような視線を向けられたことに俺は気付かなかった。消さんは面倒臭そうにボリボリ頭を掻いてから、遠くを見るように天井に視線を向けてから口を開けた。

「俺やマイクと同期のヒーローだ」
「そう、なんだ…」
「ああ。俺と同じでメディアに顔を出さない奴で、実力は俺より上だ。自分の個性を理解していて使い方にも長けていた。それだけじゃなく、個性の力だけに頼らず体術も相当強かったな。…ただ、クラスが違っていたからか…あんまり顔は覚えてないんだ」
「ぇ、そーなの?」
「あぁ」

脳裏で微かに浮かべた人物の照らし合わせたかったが、まさかの消さんが覚えてないと言うものだから目を点にした。俺の表情を見て、ピクリと眉を寄せた消さんだったが、まだ俺に情報をくれるようで続けてくれた。

「そいつが高校卒業後に設立したのが“木ノ葉ヒーロー事務所”だ」
「ぇ……」

新たな情報に耳を疑いかけた。微かに漏れた俺の声は消さんに届かなかったのか、消さんは静かに続けた。

「アイツも俺と同じ…いや、俺以上にメディア嫌いで、知名度は低い。だが、その実力は本物だ。敵捕縛数は現在のトップヒーローたちに並ぶほどだ」
「……」
「そういや、アイツのサイドキックも雄英出身だったはずだ」
「!ど、どんな人…!?」

気になる言葉に思わず先を促した。チラッと俺を見た消さんは何か言いかけたが、一度閉ざして話を続けてくれた。

「珍しい個性の奴だ。どんな個性かってのは、あんまり知らねぇが……変わった特徴を見せる」
「変わった、特徴……?」

やけに心臓の音が大きく聞こえる。消さんに聞こえるんじゃないかってくらい大きな脈拍。だんだんと速まっていく鼓動をよそに、消さんはゆっくりと口を開けた。

「眼に勾玉みてぇな模様が浮かんで、その眼の色はは紅いんだよ」

一瞬、目の前が真っ暗になった。
消さんから視線を逸らし、ゆっくりと顔を俯かせた。嫌に思うくらいドクドクと鼓動が速まり続ける。俺の様子にはたと気付いた消さんが「おい、どうした?」と心配してくれた。
けど、それどころじゃなかった。

「(木ノ葉ヒーロー事務所を建てあげたヒーロー“火影”……。そいつのサイドキックを勤めている、眼に勾玉みたいな模様を浮かべた紅い……)」

俺の勘違いなのかもしれない。気のせいかもしれない。
でも、今日起きた出来事の数々が、勘違いじゃないと、気のせいじゃないと訴えてくる。

「破軍さん、俺はいつでも構いませんよ」
「破軍さーん、今度の任務オレと組むみたいですヨー」


頭に浮かぶ、二人の忍。

「……カケル」
「!」

ハッと我に返った。バッと弾いたように顔を上げると、眉間に皺を寄せて俺の顔色を伺う消さんが。その距離の近さに驚いて、思わず仰け反った。俺の様子に問題ないと思ったのか、呆れたため息を溢した消さんが「どうしたんだ、いきなり俯きやがって」と俺に尋ねた。

「ぇ、っと……」

消さんに言えなかった。

「しょ、消さんの話聞いてたら、そこの事務所がちょっと気になったなって…。考え事してた」
「………それじゃあ、そこにするのか?職場体験は」
「んー、そう…だな。俺がつけようって思ったヒーロー名を名乗ってる人がどんなのか見てみたいからさ」
「………」

もう一度、リストを見つめながら俺はそう言った。痛いくらいに向けられる消さんの視線を無視して、ふとその事務所がある住所を見て固まった。

「……やべぇな、消さん」
「何がだ」
「この事務所、東京の池袋にあるんだけど」
「…何が言いたいんだ」

そろりと盗み見るようにして消さんに目を向けた。風呂上りで邪魔な髪をまとめている消さんは不健康そうに見える肌だ。伸びきって剃ってもいない無精鬚は見ただけでジョリジョリしてそう。合理的だなんだと言って今日もシャワーで済ませたのが目に見えて浮かび、ため息を溢した。

「俺がいない間に消さん……倒れちゃう」
「何の心配事をしてやがんだ、お前は」
「いて」

バシン、と頭を叩かれた。
馬鹿にしてんのか、だなんだとぶつぶつ不満を言ってちょっとだけ口を尖らせる消さんに、俺は小さく笑った。でもやっぱり不安だ。そりゃ消さんはもう三十歳で立派な大人。けど、普段の生活を見れば合理的だなんだと言って飯はゼリー飲料ばっかでちゃんとした食事を摂らないし、面倒だと言ってベッドにも行かねーで寝袋で寝て、風呂もシャワーしか浴びないに決まっている。

「せめて朝飯と夕飯はちゃんと食ってくれよな」
「時間の無駄だ。合理的じゃない事は嫌いなんだよ」

ソファに座ったまま、書類に手を伸ばした消さん。仕事モードにそろそろ戻るという合図で、時間を見れば日を跨ぎそうだった。

「じゃあ、消さん。俺の職場体験先は木ノ葉ヒーロー事務所にするわ」
「ならさっさと書いてよこせ」
「はいはい」

一度部屋に戻って、第一希望の欄に「木ノ葉ヒーロー事務所」と記入し、それ以下は書かず消さんに渡した。

「でもやっぱり不安だから、マイクさんたちに……」
「何も言わんでいい」

一蹴された。

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