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▼ 効率的選択

とりあえず全員のヒーロー名の発表が終わると、ミッドナイト先生は寝袋に寝ている相澤先生を起こした。寝ぼけながらも起きて、寝袋から這い出た消さんはまるでイモムシみたいだった。

「職場体験は一週間。肝心の職場だが、指名のあった者は個別にリストを渡すからその中から自分で選択しろ。指名のなかった者は、予めこちらからオファーした全国の受け入れ可の事務所40件、この中から選んでもらう。それぞれ活動地域や得意なジャンルが異なる。よく考えて選べよ」

まだ下半身寝袋に包み込んだままの相澤先生はそう言って、リストを配布した。手に取りながら、生徒達は自分の個性に見合った事務所を探し始めた。

「俺ァ都市部での対・凶悪犯罪!」
「私は水難に係わるところがいいわ。あるかしら」

切島も蛙水も興味津々にリストを見つめて言う。
その時、ちょうど授業終了のチャイムが鳴った。相澤先生は個別に指名されたリストも手渡すと「今週末までに提出しろよ」と言い渡した。
今週。今日は水曜日。つまり…。

「あと二日しかねーの!?」
「効率的に判断しろ、以上だ」

短い期間で判断するということもヒーローにとって必要だ、とでも言いたいのだろう。そう言って、ミッドナイト先生に続けて相澤先生は教室を出て行った。…寝袋を担いだまま。
受け取った俺はリストをじっと眺めた。色んな所からオファーが来ていることに驚きながらも、俺は順々にあいうえお順に並んだ事務所名を見た。

「(エンデヴァー…って、轟の親父さんか。まさかあの人からとか、誰も思ってねーって……)」

最初から大物ヒーローの指名を貰っているとは思わなくて驚き、次のページへ。2000件以上もオファーを受け取った俺のリストのページ数は70枚近くの分厚いものだった。

「二枚目でまだ頭文字が“う”のところって…どうなってんだ……」
「わぁ、蒼天くんすごい数!全部見るの大変そう!」
「そうなんだよ。むしろ見る気失せる量……」

葉隠が机を通り過ぎようとして、俺の持つリストの分厚さに驚き足を止めた。すると瀬呂が振り向き、話に入った。

「お前もすごかったもんなー!つーか、そん中から選べって結構大変じゃねーか」
「だよな。…パッと見何処が良いとか分かんねーんだよなぁ……」

パラパラ、ともう流し見しようと思って二、三枚飛ばした時だった。
ページの一番下に書かれていた事務所が目に止まった。

『木ノ葉ヒーロー事務所』

一瞬、呼吸を忘れかけた。二人は気付いてないようで、「めっちゃあるなー」「そうだねー」と楽しそうに話していた。気付かれてないほうが良かった。小さく、二人にバレないように安堵の息を洩らし、俺は何食わぬ顔でパラパラとページをめくった。

「そういえばよ」

何か思い出したかのように切島がリストから目を外し、くるりと振り返って俺を見た。

「蒼天が最初に考えてたヒーロー名、誰かがもう使ってるって言ってたけどよ、俺聞いたことねーんだけど」
「………」
「確かにー」
「私も!蒼天くんもだよね。ミッドナイト先生が言った時驚いてたから」

切島がふった話題に、俺たちの思考はそっちへ向いた。瀬呂も葉隠も聞いた事がないようで、切島に同意の言葉を口にした。

「“火影”…。カッコいいなって思ったんだけど、先に使ってる奴なんていたんだな……」
「そういう時ってショックだよなー。あ、なぁ、緑谷、お前なら“火影”っていうヒーロー知ってるんじゃねーの?」

上鳴が困ったように俺に同意して、閃いたかのように緑谷に声を掛けた。緑谷は緑谷で麗日たちと話していたようで、割り込んでしまったことに申し訳なく思った。でも、本人も使われていた事を気にしていたようですぐに話に参加してくれた。
困ったように笑って。

「それが、僕も聞いたことがないんだ」

その言葉を聞いた瞬間、戦慄めいた。

「え!?」
「デクくんですら聞いた事がないヒーローっているの!?」
「緑谷も知らねぇだと…!?」
「うん、なんでそんなショックを受けるの…?」

芦戸、麗日や上鳴が俺たちの思いを代理するかのように口にしてそう言った。緑谷は何を思ったのか傷ついた様子で、うん、なんかごめん…。

「相澤先生のことも知ってたから、知ってるって思ったけど、緑谷も知らないヒーローって、どんだけマイナーっつーか…メディアに出てないっつーか……」
「僕も驚いたよ。“火影”なんて名前を使ってるヒーローがいるってこと……」

切島の言葉に頷き、緑谷はそう言った。別にお前の事を責めるわけでもないのに、面目なさそうに項垂れる緑谷に俺は気にするな、と口にした。
でも、そっか。緑谷も知らないヒーロー……。

「……こうなったら、しょ、…相澤先生やミッドナイト先生に聞いたほうがいいのかもな…」

俺たち同世代が知らないヒーロー。これ以上周りに聞いても意味が無いと思って、俺は呟くようにそう言った。その時、タイミング良くチャイムが鳴って俺たちは席に着いた。

「………」

ペラリ、とさっき目に着いたヒーロー事務所の名前をじっと見つめた。

「(“木ノ葉ヒーロー事務所”……)」

ヒーロー名の事もあってか、続いて表記された俺にとって縁のある言葉。
俺が所属していた隠れ里の名前。
そして、その里の長の名を使ったヒーロー名。
全てが偶然とは思えなかった。

「(帰ったら、消さんに聞いてみよう……)」

あの人が教えてくれるかどうかは分からないけど。

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