▼ 呼ばれていた異名
どんなヒーロー名にしようか悩み考えて、15分ほど経った頃だった。
「じゃ、そろそろ出来た人から発表してね!」
「!?」
ミッドナイト先生の言葉に、バッと前を向いた。まさかの発表形式に全員が目を丸くした。だからボードに書かせたのか、と今更気付くミッドナイト先生の策略にこれを全員に見せるのかと悩ませた。
トップバッターは青山だった。
「輝きヒーロー。“I can not stop twinkling"」
『短文!!!』
「長いわ」
青山のヒーロー名に俺たちは思わずツッコミを入れてしまった。しかし、ミッドナイト先生は冷静にヒーロー名を省略化したほうが呼びやすいだとか言ってて、ちょっとずれてた。
そして次に発表したのは芦戸だった。
「じゃあ次アタシね!“エイリアンクイーン”!!」
「2!!血が強酸性のアレを目指してるの!?やめときな!!」
「ちぇー」
『(バカヤロー!!)』
青山と芦戸のせいで大喜利っぽい空気になってしまったヒーロー名発表会。芦戸の個性とか見た目を考えたらそんなヒーロー名を考えてもしかたないけど、ミッドナイト先生が真っ先に否定してしまえばそれを通すわけにはいかないのだ。
つーか、血が強酸性ってなんなの。それが個性の人ですか?
「じゃあ次、私いいかしら」
そう言って手を上げたのは蛙水だった。少し照れ臭そうにボードを抱え教壇に立った彼女。
「小学生の時から決めてたの。梅雨入りヒーロー“フロッピー”」
「カワイイ!!親しみやすくて良いわ!!皆から愛されるお手本のようなネーミングね!」
確かに可愛い。蛙の英語とケ○ッピーを合わせたものなのか、親しみやすいし、特に子供から呼ばれそうだ。それは今の教室の現状にも言えて、蛙水のおかげで大喜利っぽい空気がガラリと変わった。
そして次に発表したのは切島だった。
「んじゃ俺!“烈怒頼雄斗”」
当て字に見えるヒーロー名はどう見ても強そうなものだった。するとミッドナイト先生は目を輝かせ、切島が考えるコードネームに近しい存在を口にした。
「これはアレね!漢気ヒーロー“紅頼雄斗”リスペクトね!」
「そっス!だいぶ古いけど、俺の目指すヒーロー像は“紅”そのものなんス」
少し恥ずかしがる切島だったが、彼の目指すヒーロー像を聞いて感心した。けれど、憧れの名を背負うということは相応の重圧を背負うという事にもなる。切島はそれも分かった上で、ヒーロー名にしたのだった。
それから次々と皆のヒーロー名が発表されていった。
途中で。
「爆殺王」
「そういうのはやめた方がいいわね」
「なんでだよ!!」
「爆発さん太郎は!?」
「アァ!?」
「ぶはッ!!あッははは!!それぴったりじゃん!!いいじゃん、爆発さん太郎!」
「うるせぇ!テメェは黙ってろクソ糸野郎!!」
切島が考案してやったヒーロー名に吹き出してしまったら、爆豪が射殺す視線を向けた。けど切島のネーミングセンスが強くて笑いが止まらなかった。
けど、次に麗日が考案したヒーロー名にめっちゃ和んだ。落ち着いた頃に、俺もそろそろ考えないといけないと思ってボードをじっと見た。
「(個性にちなんで考えるか、それとも……)」
俺のボードはまだ真っ白で、少し悩むものがあった。今までヒーロー名なんて考えた事が無かったから、余計に考えさせられる。
その時、脳裏に浮かんだアイツの背中に俺は一度手を止めた。
「さて、次は誰かしら?」
続々と発表していき、残ったのは俺と飯田、緑谷、そして再考扱いされた爆豪だった。微妙なメンツが残ったままで、とりあえずと俺は彼らより先に出た。
「えっと、あやとりヒーロー“火影”」
「木の葉舞うところに火は燃ゆる。火の影は里を照らし、また、木の葉は芽吹く」
三代目が言った言葉を思い出し、ついそんなヒーロー名にした俺。
しかし。
「あー…、それはダメよ、蒼天くん」
「え」
申し訳なさそうにミッドナイト先生は俺に言ったのだった。A組のメンバーもなんで?と騒めき始めた。
「そのヒーロー名は、使われているから」
「っ……」
一瞬、頭が真っ白になった。
俺の様子に気付かないまま申し訳なさそうにもう一度考えて、とミッドナイト先生は言う。俺は素直に席に戻った。顔には出さなかったが、内心動揺が半端なかった。
まさかこの名がすでに使われているなんて誰が想像していたことか。
使われている、なんて…。これをヒーロー名にするなんて人はそうそういないはずだ。
「(まさか……)」
小さな可能性が俺の中で生まれた。
「蒼天くん、再考したかしら?」
「……はい」
飯田と緑谷のヒーロー名は決まったようで、再考の俺と爆豪が残った。爆豪は相変わらず物騒なヒーロー名のようで、三度目の考え直しになっていた。
俺はバクバクと心臓が激しく鳴ったまま、教壇に立ち再びボードを掲げた。
あれが使われてるなら、やっぱり俺はこっちかな。
「あやとりヒーロー“破軍”」
俺のヒーロー名に皆が首を傾げた。まぁ、それもそうだよな。
「蒼天くん、そのヒーロー名でいいの?」
「はい」
「蒼天ー、それってどういう意味だー?」
上鳴が分からない、と首を傾げたまま俺に聞いた。周りの連中も気になるようで、俺に視線を向けていた。分からないのも仕方ないけど、言っても意味がない。困ったように笑って俺は口を開けた。
「俺が、昔から呼ばれてる“あだ名”だよ」
忍界でその名を轟かせた、暗部総隊長のな。
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