if物語 | ナノ
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -


▼ まだ子供、故に

母さんと父さんと久しぶりに顔を合わせると、積もる話は多く、俺は食べたり飲んだりするよりも、二人に学校生活の事を話すのだった。すでにニュースになったUSJの事件は、二人の耳にも届いていて、その時の事をすごく心配してくれた。

「消太もだが、カケルまで重傷を負うとは思わなんだ。それほどまでに、敵は強かったのか?」

話に夢中になり酒を飲むスピードが落ち着いた父さんが、真面目な表情で俺や消さんを見て尋ねた。母さんも、飲み物を手にし心配そうな表情を浮かべていた。
消さんはお酒を手にしていたが、机に置いてあの時の事を思い出しながら口を開けた。

「…奴等“敵連合”と名乗る奴等は、平和の象徴・オールマイト抹殺が目的のようでした。対彼用の敵までもを引き連れていました」
「それで、消太くんはそんな怪我をしているのね……」

今日の昼ほどまでとはいかないが、まだ包帯が巻かれている消さんを見て母さんがしみじみと言った。

「消太、怪我はもう大丈夫なのか?」
「あぁ。ばあさんが大袈裟に巻いてただけで、そこまでの怪我じゃなかった」
「………」

嘘吐け。ボロボロになってたくせに、なに言ってんだ。
あの時の痛々しい姿を思い出し、ギュッとグラスを持つ手に力が入った。

「……それで、カケルは怪我を負った消太くんを目の前に、我を忘れかけて敵に挑んだのね」
「………」

俺の様子を目敏く気付いた母さんが、呆れたようにそう言った。何も言えない俺はただ黙るだけだった。そんな俺を一瞥した消さんはフッと息を吐くと、母さんに向けて口を開けた。

「カケルはまだ餓鬼です。USJでも、今回の体育祭でも、自分の力が敵向きだと自分で言っているほど、まだ何も見えていない、ヒーローになれない餓鬼です。自分と敵の力量を計らず挑み怪我をし、本気を見せず戦い本気を見せないまま自ら舞台から降りた。…正直、こいつは何の為に居るんだと思うことはありました」
「っ……」

容赦ない言葉が刃となり俺に突き刺さった。
確かに、俺は前世の経験もあってか同い年を格下のような扱いをしている。体育祭は最初から全力を出さないで、順々に段階を踏んでから力を見せる余裕を持っていた。それが爆豪を逆撫でする原因になったんだけどな。だって前世に比べたら、この世界は生温いものだと感じてしまうんだ。本当の戦争も命のうばい合いも知らない、ただ個性という力をヒーローという名で盾にし、偽善事業に使っているという生温い湯に浸かっている奴等だという認識をしていた俺。
消さんや父さんたちはヒーローという輝かしい存在に対して、俺は元忍だ。影の存在だ。元来、忍は草の存在。目立つことはしない。忍び耐える者。歴史にその名を残すなんてしないような存在だ。汚れ仕事は忍の仕事。
だからこそ、アンタの力になりたいって思った。

「……だが」

消さんの話は続いていた。

「カケルは将来、立派なヒーローになります。それこそ、誰もが信頼し、安心させるようなヒーローに。今はまだまだ餓鬼くせぇ子供だが、…俺が、雄英の教師が、ちゃんとこいつを鍛えてみせますよ」

プロの、俺を両親の次に見ていてくれた人が、俺が力になりたいと思っている人に、そう言われて嬉しくないはずがなかった。
さっきまでの沈みかけた気持ちが、一気に登り上がった。

「………そう」

母さんは消さんの言葉を信じ、そう言った。父さんは何も言わず、ただ俺たちを見ていた。
祝う場には不釣り合いな空気に、なんとも言えなくなったが、俺は今言っておかないといけないと思って口を開けた。

「……確かに俺は周りを冷静に見えてねぇ子供だ。消さんが怪我をしたのを見て、我を忘れかけた。でも、消さんを助けたくてしたから、後悔はしてない。自分の個性が人を傷つけやすいものだと分かった上で、使っていた。でも、他人から見れば、敵向きにも見えるもの。使い方を間違えたら、俺は敵と見られる。……けど、俺は、この力で、俺の手が届く人達を助けたい。それに、もともと俺がヒーローになりたいって思ったのは、消さんの力になりたいって思ったからなんだ」

今更過ぎるカミングアウトに、母さんも父さんも、そして消さんも目を丸くした。分かりやすい反応に俺は苦笑を溢して、続けた。

「無茶はしない、なんて約束はできない。ヒーローを目指すんだから、それなりの覚悟を持ってやらなくちゃならないから。それに、USJみたいに、消さんが危ない時に掟だルールだなんだと言って助けないなんて事は俺はできないから。間違えることだってあると思う。間違えることばっかりだと思おう。……だから、こんな俺だけど…これからも、よろしくお願いします」

両親に、そして消さんに頭を下げた。
今まで見たことない俺に驚いている三人は無言のまま俺を凝視していた。視線が痛い、なんて思うけど、今まで飄々と生きていたから仕方ないことかもしれない。
三人には、まだたくさん隠し事をしていることがある。転生という非科学的な事もあって、それを全て教えるわけにはいかない。
でも、裏切るような事はしない。

「…どうしましょう、あなた」
「……そうだなぁ。まさか、息子が見ないうちにこんなにも成長しているとは思わなんだ…」
「違うわよ。今日はカケルのお疲れ様パーティだったのにしんみりしちゃって、この後どうしたらいいのか分からないのよ」
「え、そっち?」
「………ハァ」

今度は母さんの言葉に俺が目を点にすることになった。それは消さんも父さんも同じだった。場違いな気もする言葉を言った母さんは「あら、だって本当の事じゃない」なんて笑っている。
うん、流石母さんだ。

「カケル」
「?」
「貴方はまだ子供。それが悪いことでもありいい事でもあるのよ。私たちは貴方の成長を見守り続けるわ。何度失敗してもいい、間違ってもいい。自分で考え、学んで、成長していきなさい」

優しく、けれど真っ直ぐな目を俺に向けて母さんは言った。父さんも一つ頷くと、俺じゃなくて消さんに目を向けた。

「カケルの事、これ以上に頼むぞ、消太」
「………えぇ。責任を持って、カケルの面倒を見させてもらいます」

普段はタメ口なのに、ここぞという時は敬語になる消さんは本当にずるいと思った。
重たい話はここまで、と言ったのは父さん。再び、俺たちの学校生活や、自分達の活躍した事件の事を酒の肴にして、盛り上がったのだった。

***

とある場所。
とあるビルの一室にて、彼らは集まっていた。
真っ暗な室内の中、画面奥からの眩い光源に照らされる三つの影。眺めているのはある少年が映っている映像だった。
本日、雄英高校で行われた体育祭のものだった。

「彼、いましたね」
「いやー、まさか本当にいるなんてネ」
「我々だけかと思ってましたが…そうではなかったようですね…」
「うん。ま、ようやく会えるってワケだね」
「………嬉しそうですね」
「そりゃーね!…でも、お前たちだって同じデショ」
「否定はしません」
「………困った人達だ」

淡々と交わされる会話。そして映像はパッと切り替えられ、ニュースになった。瞬間、電源を消し、辺りは真っ暗に。

「それじゃ、明日にでも指名しておきますか」
「えぇ。………逢えるのが、楽しみですね」

瞬きを一つした男の眼が、妖しく紅く光った。

prev / next

[ back ]