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▼ 体育祭の後は

表彰式も終え、着替えて教室へ戻り帰りのHRを行った。

「おつかれっつうことで、明日明後日は休校だ」
「!!」

相変わらず包帯を身体中に巻かれた状態の消さんが俺たちに事務連絡をする。
明日明後日が休みなのは、一度に全学年ステージがあったからだろう。全学年が一度にすれば、学校側もプロヒーロー側も大変だから。

「プロからの指名等をこっちでまとめて休み明けに発表する。ドキドキしながら、しっかり休んでおけ」

その言葉で締めくくり、俺たちは解散した。
互いに体育祭の疲れがまだ残っている身体に鞭を打ち、帰る支度を始める。ふと、爆豪を見ればまだ金メダルを口に引っかけたままでいた。それに隠れて笑ったんだが、あちらさんは気付いたみたいでこっちを見てきた。が、慌てて逸らした。

「蒼天、帰ろうぜ」
「おう」

尾白に誘われ、一緒に帰ることに。すると…。

「待って待って〜!私も一緒に帰るー!」
「あぁ、うん。いいよ、葉隠さん」
「じゃ、一緒に帰ろう」

いつかの流れのように、葉隠も加わった。嫌ではないからすんなりと了承する俺と尾白に彼女はありがとう、と見えてはいないがニコリと笑って言った。
まだ教室に残っている連中に挨拶して俺たちは教室を、そして学校を後にした。

「あ〜、疲れたぁ…」
「ねー。蒼天くん、改めて三位おめでと〜!」
「…ありがとな」
「お疲れ。葉隠さんも、お疲れだったね」
「私なんてまだまだだよ〜!でも、もっと目立つためにはこれから頑張らないと!」
「う、うん…なんかそれ違うような……」

天然なのか阿呆なのか、どっちなのか分からないけど葉隠のその天真爛漫な姿に俺達は疲れが取れた気がした。やんわりと違うと否定する尾白に不思議そうに首を傾げた彼女。それが素だと分かれば、笑ってしまうのは無理もないことだった。

「くくっ、あははっ!葉隠ってば、天然なのか…!?」
「ちょっ、蒼天くん!もしかして私のこと馬鹿にしてる!?」
「蒼天、お前笑い過ぎ……」
「いや、だって…!くくっ…!」

あー、もう…。爆豪のガッチガチに固定された姿で爆笑したってのに、まさかこんな事でも笑ってしまうとは思わなかったわ。
そんな俺にプンスカ怒っていた葉隠と苦笑を浮かべていた尾白は、互いに目を合わせたかと思えば笑ったのだった。それに今度は俺が笑うことを忘れて目が点になった。
え、なに。どーしたのさ。

「蒼天くんってば、なんだか吹っ切れたみたいだね!」
「……え…?」

葉隠の言葉に俺は思わず足を止めた。
それに気付かないまま、葉隠の言葉に同意し尾白も言った。

「確かに、そうだね。今まで隠してた実力を見せたからか、少しだけ俺たちとの距離も近くなった気がするよ」
「………」
「ね、ね!女子の皆とも話してたの!蒼天くんとお話するとなんだか気持ちが楽になるって!」
「それ、峰田や上鳴の前で言わないようにね……」
「?うん、分かった」

分かって無いでしょ、葉隠。
素直に尾白の言葉に頷いた彼女。尾白も俺と同じ気持ちのようだった。

「(…けど、そっか……。俺、距離を置いてたんだな……)」

無意識にあけていた距離。それを俺は感じていなくても、尾白たちは感じていたようだった。それに俺は申し訳ない気持ちもありつつも、気付いていたこと、そして距離が縮まったと喜ぶその気持ちに嬉しく思えた。

「……尾白、葉隠」
「?」
「なーに、蒼天くん」
「……改めて、これからもよろしくな」

つい、そんな今更な事を俺は口にしたのだった。
もちろん二人は俺の気持ちに分かってないから「今更だなぁ」なんて笑ってそう言った。
帰り道、何処かに寄る事はしないで俺たちは葉隠を最寄り駅で見送ってからそれぞれが帰路についた。尾白は今日の体育祭の話題をずっと絶えずことなく話し、そして俺と今度組み手をすることを再度頼んできたのだった。そんなに俺と組み手したいのか、と驚いたけど尾白から見れば俺は猛者だという。
いや、まぁ否定はしないけどな。
格闘や筋トレの話になる途端に熱くなる尾白が意外に思って、また笑ってしまった。明日明後日が休みだけどどうするのか、という話じゃあ、尾白は特にする事はなくのんびり過ごすと言っていた。最近は忙しかったから、ゆっくりしたい気持ちは同じのようだ。
そうして尾白とも別れた俺は、居候先である消さんの家に帰宅したのだった。

「……やっぱり消さんは帰ってねぇか…」

部屋はもぬけの殻。そりゃ、今から俺たちの指名とかを選別しないといけないから忙しいか。あとは、先生だけの飲み会とか。
少し寂しく感じるものの、仕方がないこと。
鞄を部屋に置いて、俺は広いリビングに置かれた真っ黒なソファにぼすり、と横になった。ヴーヴー、と手にしていたスマホが震えた。見てみれば、メールでも無料通話アプリでもなく、着信。
着信相手は、消さんだった。

「……もしもし」
“遅ぇ。出るのに何秒かかってやがる”
「気付かなかったんですー。そう四六時中持ってるわけないじゃないですかー」
“屁理屈も大概にしろ。……帰ったのか”
「帰ったよ。今日は晩飯どうします?簡単なものなら作れるけど…」
“いらねぇ。今日は遅いからな”

その言葉に、ああやっぱり、と内心がっかりした。
一緒に飯食って、少しは今日の事を褒めてくれるかななんて期待したが、やっぱり難しいか…。
嘆息がこぼれたが、消さんに聞こえたかは分からない。すると、電話越しで名前を呼ばれた。こちらの気持ちを気付かれないように「なんですかー?」と飄々とした声で応えた。

“7時。駅前の○○っていう店に来い”
「え…?」
“遅刻したら除籍にしてやるからな”

そう言って消さんは電話を切ったのだった。ツーツー、という電話が切れた音が続き、俺はそっと耳からスマホを話した。

「7時に…」

消さんが言った店は居酒屋だ。けど、個人営業店でもあるから少しだけお値段が張る。そこそこお金を持って行かなくちゃいけない場所だ。
なんで、そんなところに?
時計を見ればまだ6時を回ったばかり。着替えていけば充分間に合う。逆算してから俺が動いた。
何が待ち受けているか分からずに。

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