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▼ 平和の象徴からの称賛

空砲が放たれる。

「それではこれより!!表彰式に移ります!」

ミッドナイト先生の声が会場に響き、それに応えるように歓声が大きく広がる。
俺達はミッドナイト先生に誘導されながら、表彰台に登った。俺と同じ三位の飯田の姿はなく、事情を聞きようにも聞けない様子で早退をした。
どうやら身内に何か起きたようだ。
飯田の事が気になるけれど、それよりも俺達の視線を有無言わさずに向けてしまう人間がいた。

ガヂャ ガヂャ

「ん゛ん゛〜!!」

さっきからずっとガチャガチャと喧しく鎖を揺らす今日の優勝者。
手足を手錠、というかもはや拘束具で縛られ、さらには口に鉄製のマスクを掛けられ、声を出せない様子。その姿は今日の優勝者とは似つかないもので、もはや囚人みたいになっていた。
一年は全員、表彰台の前に集合し、その奥ではメディア連中がパシャパシャとフラッシュをたきつつカメラにこの様子を収める。

「何アレ…」
「起きてからずっと暴れてんだと。しっかしまー……締まんねー一位だな」
「あはははははは!!爆豪だっせぇ!!」
「蒼天は笑い過ぎだろ…後で殴られてもしらねーぞ……」
「つーか、あんな爆笑する蒼天見た事ねーよ」
「それな」

クラスメイトが呆れた様子がここから分かる。隣に居る俺はそんな爆豪を見て腹を抱えて笑ってやった。
いやもう、完膚なきまでの一位だな本当に。今までの雄英高校の体育祭においてこんな奴一人もいないだろう。良かったな、歴史に残る一ページだな。
爆豪はさっきの試合に納得してないみたいで、鎖を揺らし暴れ轟を睨みつけていた。我道を行くとはこの事か…色んな意味で大物だな、コイツ。
にしてもウケる、腹痛い。

「三位には蒼天くんともう一人、飯田くんがいるんだけど、ちょっとお家の事情で早退になっちゃったのでご了承下さいな」

メディア意識でウインクを決めてそう言うミッドナイト先生。流石だわーなんて、拍手を送りそうになった。

「メダル授与よ!!今年メダルを贈呈するのはもちろんこの人!!」
「ん?」

ミッドナイト先生の言葉を聞いた時、ふと影が差した。振り返ってみれば、会場の上、ドームの屋根に立つ一人の男がいた。

「私が、メダルを持って来」
「我らがヒーロー、オールマイトォ!!」
「被ってるやん」

カッコよく決めたかっただろうオールマイト先生は、ミッドナイト先生によって出鼻をくじかれた。なんだか微笑ましい光景に思えた。
オールマイトはミッドナイト先生からメダルを一つ手に取って、俺の前へと現れた。
うお、こんな間近でオールマイトを見る事無いから柄にもなく緊張した。つーか、画風が本当に違うな…どうなってんの。

「蒼天少年、おめでとう!君は本当に強いな!」
「ありがとうございます」

オールマイトにメダルを首に掛けてもらいつつ、礼を言う。ブロンズメダルが鈍く光っているのを見つめていると、オールマイトは言葉を続けた。

「君の試合は私たちを驚かせるものばかりだった。自分の限界を決めず、素早い動き。さらに自分の個性を使った戦いのみならず、どんな相手とも渡り合える体術まで、本当に素晴らしかった!」
「……俺は、まだまだですよ」
「その向上心はよし!だがね、爆豪少年との戦いで君は危うい立場になりそうだったね。正義と悪は紙一重!君が何をしたいのか、しっかりと見据えてくれ」
「……ありがとうございます」
「けど、流石は彼の親せきだね!君の実力は群を抜いていた!これからも怠慢せず、頑張ってくれ!」
「はい」

そう言ってオールマイトは俺を抱きしめ、背中を優しく撫でてくれた。
流石はNo.1ヒーロー。よく人を見ているな。
オールマイトは俺から離れ、二位の轟の元へ向かった。それを横目で見、首に下がった自分のメダルを手にしてもう一度見つめた。
光で反射して眩しいと思ったが、それよりもこの体育祭がこのメダルを通じて振り返りさせられた。第一種目、第二種目と、そして決勝トーナメントでの俺の戦い方。
俺もまだまだって事か。
轟との話が終わると、今度は優勝者である爆豪。マスクを外すと、爆豪は地を這うような声でオールマイトに訴えだした。

「オールマイトォ、こんな一番…何の価値もねぇんだよ。世間が認めても俺が認めてなきゃゴミなんだよ!!」

目がつり上がりすぎるわ、ビキビキ米神が動いてるわで顔がすごい事になっている爆豪に俺はまた笑ってしまった。さっきとは違って我慢はするけど、どうも抑えられそうにない。受け取らないつもりでいる爆豪に、オールマイトはメダルの紐を咥えさせて、それで受理したことにした。

「受け取っとけよ!“傷”として!忘れぬよう!」
「要らねぇつってんだろが!!」

なのに咥えているままなのは律儀というかなんというか…。
俺達にメダルを渡し終えると、オールマイトは俺達の前に立ち、会場全体を見渡した。

「さァ!!今回は彼らだった!!しかし皆さん!この場の誰にもここに立つ可能性はあった!!ご覧いただいた通りだ!競い!高め合い!さらに先へと登っていくその姿!!時代のヒーローは確実にその芽を伸ばしている!!」

オールマイトの言葉に真剣な眼差しで聞く一年生。俺も他人事のようには思わないで、一言一句溢さないよう耳を傾けた。
彼の言う通り、俺が此処に立っているのはたまたまだったかもしれない。トーナメントでのくじ引きで違う場所だったら、即敗退していたかもしれない。色んな可能性があった中、俺は此処に立っている。
ヒーローというものは何なのか。まだまだこれから学んでいくだろうけれど、この雄英体育祭はヒーローの素質を育むためには必要なものだと実感した。

「てな感じで最後に一言!!皆さんご唱和下さい!!せーの」

オールマイトの言葉に、俺も今回は参加しようとそれを口にした。

「プルス、」
「おつかれさまでした!!!」
「……え?」

え、そこはプルスウルトラじゃないんですか?
拍手とブーイングが混じり合う中、雄英体育祭は幕を閉じた。

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