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▼ 払拭された不安

「あ!いた、蒼天!」
「ん?」

消さんと別れた後。消さんに言われてもあって、リカバリーガール先生の元へ行って、爆豪に殴られたところを応急処置してもらった俺を呼ぶやつが。
まぁ、キズは深いわけでもないから、リカバリーガールの個性を使わないで済んだ。あれって体力持って行かれるから苦手なんだよな。にしても爆豪のやつ、本気で殴りやがって…。
試合の反省よりも爆豪の手加減のなさに少し不満を抱いていた俺だったけど、呼ばれた方へ目を向けると…。

「…尾白?それに、葉隠まで……」

俺に向かって走り寄ってきたのは、よく一緒に過ごす尾白と葉隠だった。どうしてそんなに慌てているのか分からない俺。あ、もしかして爆豪と轟の試合、始まりそうなのかな。

「…あれ…」

自分の手を見れば、何故か震えていた。
じっと手を見ていたけど、近寄った二人にハッと我に帰りどうしたのか、と声を掛ければ二人は俺を見て笑った(といっても葉隠の表情は分からない)。

「試合、お疲れ様」
「おつかれ〜!蒼天くん、すごかった〜!」
「お、おう…ありがと……」

尾白はほっと安心したような様子。葉隠は身振り手振りで興奮気味の様子。
二人の違う様子に戸惑いつつお礼を言えば、尾白が「怪我はそこまで酷くないみたいだな」と俺の頬にあるガーゼを見て言った。それに「おう」と一言だけ言うと、今度は葉隠が俺を何度も呼ぶ。
どうしたのこの子、テンション高いよ。

「蒼天くん、本当にすごかった!強いね〜!」
「うん、それさっきも言ったぞ葉隠…」
「もうすぐ爆豪と轟の試合始まるよ。ほら、行こうぜ」
「行こ行こ〜!」
「おわっ」

尾白と俺の前に、葉隠は俺の後ろに回ったかと思えば背中を押してきた。咄嗟に反応出来なかった俺は前に倒れそうになったが、倒れることはなく慌てて振り返る。尾白と葉隠は、二人並んで俺を見ていた。
その表情に恐れはなく、いつも通りだった。

「お疲れ様、蒼天」
「三位だけど、すごかった!おつかれ!」
「………」

尾白と葉隠の言葉はなんとも言えない気持ちになった。
ふと自分の手を見れば、震えは止まっていた。もう一度二人へ目を向ければ、変わらない表情。彼らからは、俺に対する恐怖も侮蔑もなかった。
ああ、なんだ。そういう事か。
自分の手が震えていた理由がなんなのか分かった俺。ストン、と何かが落ちてきた感覚だった。

「……ありがとう、二人とも」

怖がられて、拒絶されるのを恐れていたのは俺だったみたいだ。
笑った俺に、尾白と葉隠は互いに顔を見合わせたかと思うと、俺の隣にやって来た。というか、葉隠の顔見えないのによう分かったな、尾白の奴。

「ほら、いこ!決勝戦はどっちが勝つかな〜!」
「難しいね。爆破と半冷半燃だからな。轟が左を使うとなったら、予想もつけにくいよ」
「確かに。でも、爆豪は勝ってほしいもんだな。俺に勝ったんだからよ」
「蒼天は自分から負けって言ったんだろ…」
「あ、そうでした」

尾白の言葉に笑う葉隠。それにつられて、俺たちも笑う。
軽蔑されるかと思った。皆がヒーローになりたい絶好の機会の場で、自分からステージに降りたのは、俺。一緒にヒーロー目指そうって言った俺を幻滅するかと思って勝手に不安になってたのは俺のほうだった。

「あ、蒼天くん!」
「おお、蒼天!お疲れ!!」
「出たよ、隠れ最強野郎!」

A組の元へ行けば、次々にかけられる言葉。ちょっと刺々しい言い方もされたけど、誰も俺に冷めた目を向けていなかった。
馬鹿みたいに安心した俺がいた。

「ありがと。てか、なにそれ。隠れ最強野郎って、初耳なんだけど」
「うっせー!お前の個性もだけど、足の速さなんなんだよ!チートじゃねーか!ずりーぞ!」

峰田はぎゃんぎゃん犬みたいに言う。まぁ聞かれるとは思ってたけども、そこまで言われると思わなくて、苦笑が漏れた。そんな峰田を黙らせたのは、梅雨ちゃんだった。

「蒼天ちゃん、お疲れ様。爆豪ちゃんとの試合、勉強になれたわ」
「…あんなので勉強しちゃダメだって、梅雨ちゃん」

俺の戦い方は、殺しの戦い方だから。
それを言わないで、笑って誤魔化した。けど梅雨ちゃんは「そうじゃないわ」と首を振って俺に言った。

「蒼天ちゃんの戦いで、個性で頼らずに戦うって事を学んだわ。私も負けてられないって、思ったもの」
「……なあ、梅雨ちゃん」
「なぁに?カケルちゃん」
「今度、俺と組み手するか?体術、教えてあげる」

嘘を言わない、飾らない彼女の言葉だからこそ、俺は嬉しく思った。だから、思わずそんなお誘いをすれば、梅雨ちゃんは表情は変わらなくても驚いようで間をあけて「じゃあ、今度お願いするわ」と言ってくれた。
しかし、それを許さない奴だっている。

「てンめぇぇぇ蒼天!!なに勝手に二人きりでの約束をとりつけてやがんだよぉぉぉ!!」
「蒼天くんずるい!私も!私ともしよ!!」
「これがモテ男のナチュラルなお誘いの仕方か…!」
「蒼天、俺ともしよう!お前の体術とか絶対知っておきたい!」
「蒼天、俺ともう一度戦ってくれ。お前の瞬身の術、この手で暴く」
「待て待て!俺とも戦おうぜ、蒼天!爆豪との戦い、すっげー興奮したぜ!」
「わ、私も…!自分のためにも、今度是非お手合わせを…!」
「ぼ、僕も!蒼天くんの個性をしっかりと見ておきたいし、それに僕自身もっと体術を学んで自分の個性に活かしたいから…もっと自分の可能性を広げて…ブツブツ…」
「デ、デクくんまた始まった…。けど、私も!爆豪くんをあそこまで追いつめた蒼天くんの体術、私も学びたいな!」
「………」

収拾がつきません。
梅雨ちゃんと約束したはずの組手は、何故かクラスの連中ともする事になった。
つーか、尾白と葉隠は必死にもほどがあるわ。
俺を放って、口々に「俺だ」とか「私が先よ」と言い合う尾白達。障子とか耳郎が呆れた様子で見ているくらいだった。
なにやってんだよ。なんでそんなにも…。

「…お前ら必死過ぎだっての」

可笑しくて、今までの不安とかが吹っ飛ぶくらいで、久しぶりに心の底から笑った気がした。

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