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▼ 似ている目

「負けたことにしてあげるよ、爆豪」

俺の言葉に、粛然とした会場。これからもっと白熱した戦いが見れると思っていたヒーローたちからしたら、拍子抜けのものだろう。
構えたまま固まった爆豪に俺は不敵な笑みを浮かべ言った。

「……………ア゛ァ!!??」

数秒遅れての反応は、怒り狂うものだった。
BOOOOM!!!と今までにないほどの爆破をした爆豪によってハッと我に帰ったのはミッドナイト先生。

≪蒼天くん、こ、降参…!爆豪くんの勝利!≫
『えぇぇえぇぇええぇ!!!?』

一変。
主審の判定に会場も遅れてのリアクションをしてくれたのだった。遅いー、とか口にしたけど響き渡る驚愕の声に俺の声は消される。

≪蒼天、まさかの降参宣言!!?拍子抜けする展開に俺ついていけねぇ!!≫

マイクさんのアナウンスによって、さらに騒然とする会場に俺はフィールドから出た。これで俺の負けは確定でもある。
納得してない面々。その中で一番納得していなさそうなのが、戦ったお相手。

BOOOOM!!!!

「ふざけんじゃねーぞクソ糸野郎ォ!!!!なに俺から逃げてんだよ!!」
≪爆豪、あまりの急展開に怒り心頭。いや、まぁそうなんだけどね…≫
「……」

爆豪は何度も爆破をしながら俺にそう言う。マイクさんも同じような気持ちだったのか、そんな事を言う。もちろん、俺の耳に届いているわけであって、俺は爆豪に背を向けたまま足を止めた。
自分から負けたって事は、逃げたって事と同義になる。
そう考えるのも仕方ないだろう。だが、俺は別にお前から逃げたつもりはない。だって、おかしいじゃねーか。

「なんで、お前から逃げないといけないだよ」
「!」

振り返り、一歩足を前に出した。
瞬間、爆豪の視界から俺は姿を消した。

「むしろ、お前のためを思って言ってんだよな」
「っ…ンだとォ…!!」

再び爆豪の背後に現れた俺に、会場は静かになった。すぐそばで爆豪を落ち着かせようとしたミッドナイト先生も俺が一瞬で現れた事に驚いていた。
爆豪は背後をとられた事に驚いたが、それよりも俺の言葉に反応し、低くそう言った。

「お前、俺の動きが見えてなかっただろ」
「……」

図星のようで、爆豪は無言で俺を睨んだ。分かりやすい態度で、つい喉で笑ってしまった。それが火に油を注いでしまったようで、今度は殺気を込められて睨まれた。
とーっても可愛い殺気だけど。

「今の俺の動きを目で終えたのは数人程度だろ。かといって、俺が攻撃した時に対処できるかといえば、否」

俺は瞬歩を得るために、鍛錬を欠かさなかった。チャクラがあろうがなかろうが、出来ると思ってしていた。脚力、身体能力、跳躍力も全部、餓鬼の頃から怠らずに修行をしてきた。
俺の努力の結晶を、そう簡単に見破られても困る。

「それが、俺とお前の実力の差」
「っ…!」

再び瞬歩で距離を置き、今度はゲートの前に立った。俺を追えなかった連中は何処に行ったと辺りを見渡していて、それが普通の反応だよな。なんて思った。

「それじゃあ、爆豪」

一瞬で集まる視線。
爆豪も俺の姿を目に捉えられなかった連中の一人。声がしたほうに目を向け、俺を視界に映した途端驚きと怒りが混ざったような目になった。

「優勝、ガンバッテネ」

ニコリ、と上辺っ面の笑みを浮かべて一言激励を送って、俺はステージを後にしたのだった。

≪な、なんか白熱っつーか色々とごちゃごちゃしたモンだったが、これで決勝戦進出は決まったァ!!爆豪、進出ってことでェ!!決勝は、爆豪VS轟に決まりだァ!!!≫

マイクさんに全部押し切ってしまった形になったが、流石はひさしさん。難なく会場を再び盛り上げてくれたのだった。俺と爆豪の戦いでステージはボロボロになった。セメントス先生が修復するから少し時間がかかるだろう。爆豪を落ち着かせる時間にもなるはずだ。

「………」

コツコツ、と俺の足音が響き渡る通路。光が届かなくなり、人工灯の頼りない光しかない所になって、俺は足を止めた。
通路の曲がり角。そこに、その人は居た。

≪ぃよーし!!少し時間が空くから、ここまでの爆豪&轟の戦いのVTRを見てもらおうじゃねーか!!おいイレイザー、解説頼むって…アレ!?イレイザーいねぇし!!トイレにでも行ったのかよ≫

館内放送のスピーカーから聞こえたマイクさんの言葉に苦笑を浮かべた。

「いいのかよ、此処に居て。解説頼まれてるけど」
「どーせ話すことなんて無ェよ。待ってる間にってのは合理的だが、中身は合理的に欠ける」

言い捨てた言葉に俺は何も言わなかった。

「なぁ、消さん」

俺を、怒る?
此処までわざわざその状態で来たって事は、俺に言いたい事があるに決まってる。包帯の隙間から見える消さんの目は細くなっていて怒りの感情が見え隠れしていた。笑って尋ねた俺に、消さんはため息を溢した。

「テメェはつくづく面倒な餓鬼だよ。合理性も無い、常に考えねぇで動いている」
「そこまでかよ。最近は消さんのせいで合理性に近い思考にはなってると思ってたんだけどなぁ」
「お前に合理性は似合わねーよ。…騙し騙しで生きていく人間だ、お前は」
「……」

消さんにそこまで言われるとは思わなくて、俺は目を丸くした。それは一瞬。“蒼天カケル”という人間を知りつつある消さんに俺は申し訳なく思った。
こんな面倒な人間を傍に置いてしまっている貴方にはとても迷惑をかけているのだから。

「…爆豪が、似てたんだ」
「あ?」
「俺のかけがえのない奴等に。忍び耐えることはなくても、自分の道を突き進む信念を持っている奴に、似てた。この先、どんな苦難困難が待ち受けようとしても、決して揺るがない、真っ直ぐな目が…アイツらに…」
「………」

ボロボロになった黒弦を見つめて、俺は目を閉じた。脳裏に浮かぶのは、忘れることのない木ノ葉のみんなだった。

「カケルー!」
「……カケル」
「カケルくんっ」
「あ、カケルさん、じゃない、カケル…さん…。んー……やっぱり無理だな…」


どいつもこいつもてんでバラバラ。だけど、それぞれに一本の筋をピンと張って、生きていた。一度違えたこともある。でも、ちゃんと最後は仲直りした。あの頃と変わらない餓鬼に戻って、俺や他の奴等に迷惑をかけた。

「…似てたから、俺がアイツの道を邪魔しちゃいけないって思っちまった」

消さんからしたら何を言っているのか分からないだろう。たとえ瞬歩を習得して一番最初に見せたのが消さんだったとしても、前世を理解してくれるとは思っていないのだ。でも、こうやって吐露するのはこの人の前だけ。

「…やっぱりお前は、合理性にも欠けて、面倒な餓鬼だな」
「……否定は出来ねーや」

消さんの言葉に、俺は笑みを浮かべてそう言った。

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