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▼ 決着

俺が今抱いているこの気持ちはなんなんだろうな。懐かしさか嬉しさか、それとも別の何か。
どれにせよ、爆豪の目は真っ直ぐと凛としたものは、俺の感情を動かすものだと感じた。爆豪は一度、緑谷に負けた。負けたからこそ知った悔しさ。それをもう二度と味わいたくないのだろう。完膚なきまでの一位とは、自分に余裕を持たせたいと捉えることができる。
こいつも成長したって事か。

「加減なんざするんじゃねーぞ、糸野郎。俺は、テメェと全力で戦って、その上で勝つんだよ!!」
「…分かったよ」

お前がそこまでいうなら、俺も本気を出すよ。
黒弦を持つ手に力を入れて爆豪を見た。爆豪はいつでも攻撃できる体勢で、バチバチと小さく爆破を繰り返していた。威嚇か、それとも何か策があっての罠か。どちらにせよ、俺がアイツの動きを封じればいい。
ただし。

「俺は個性だけで戦うつもりはねーよ!」
「!」

一瞬で爆豪の前まで現れ、踵落としを食らわせた。ドガァン、と地面にのめり込んだ爆豪。顔面強打、見てるこっちも思わず顔を歪めたくなるほどの威力でやってしまった。
でも爆豪が本気で来いとか言ってたから俺は悪くない。

≪蒼天、一瞬で爆豪の前に現れて容赦のない踵落としィ!!あれ絶対痛ぇ!!≫
「よっ…と」

爆豪から距離をおいて、様子を見る。地面に叩きつけられたまま動かない奴だが、ほんの数秒。ドガァアン!とおおきな爆破を一発し、復活した。
変わらず闘志の炎は消えていなかった。

「一度ならず二度も顔をやりやがって…!」
「ちょうどいい大きさだからよ」
「ざけんな!!!!」

そう言って手のひらを外に向け爆破。その爆破の威力を使って俺に向かってきた爆豪。第一競技でもそうやっていた爆豪だけど、そろそろ手のひらが酷い事になっているだろう。
自分の身体を大切にしたらどうだか。
再び髪を一本抜いて、黒弦へと変化させて構えた。爆豪は片手で俺に向けて攻撃し、もう片方は噴射につかってと何度もそれを繰り返して俺と戦う。黒弦で爆豪の攻撃を防ぐが、いっこうに俺から攻撃はできずにいた。

≪爆豪の連続的攻撃に蒼天、手足が出せず!攻防は繰り返される!!≫

なるほど、それが狙いって事か。
さっきまでとは逆転。俺が爆豪の攻撃を防ぐばかりになっていて、これじゃあ俺が攻撃にまわることはできない。やっぱり頭は冷静なままのようで、考えている。
けど、このままってのは俺が許さない。

「弦術・"殺取"…」
「!」

後退しながら防いでいた俺は爆豪の考えは分かっていた。俺を場外負けにしようとしていたようだけど、そう簡単にさせない。
気付くのが遅かった爆豪。地面を見れば、螺旋に敷かれた黒弦。その中心に爆豪はいた。ずっと俺を見ていたから気付いていなかったのだろう。まぁ、糸を肉眼じゃ見えないようにしていたのもあるかもな。その螺旋を見た瞬間、しまったって顔になった。
爆豪の攻撃が緩まったその隙を突いて、瞬歩で距離をあけた。そして、手にした黒弦をいっきに引き上げた。

「 "螺旋刃"!」

引き上げた瞬間、黒弦の硬度をそこそこ硬くしたため、殺傷力も上がる。爆豪の皮膚が切り刻まれ、爆豪は膝を地面につけた。

≪蒼天SUGEEEE!!爆豪、蒼天の攻撃でとうとう地面に膝をつけたァ!!≫

肩で息をする爆豪を尻目に綺麗に着地した。今までの試合で一番長い気もするが、俺と爆豪の戦いに夢中になっている奴は多かった。でも、ヒーロー目指している奴がこんな戦い方でいいのかとか思う野郎もいるみたいで、顔を顰めている奴もいた。
けどよ、ヒーローって無傷で終わるような仕事じゃないことくらい分かってるだろ。

「……ん?」

ふと、微かな甘い匂いが鼻に擽った。普段あまり匂わないそれに、俺は眉を顰めた。周りから漂う。風が吹いていないし、どこから…と周りを見渡した時だった。
緩んでいたはずの黒弦が、ピンと張っていた。

「舐めてんじゃねーぞ、クソ糸野郎…」
「(全然離してくんねぇ…)」

グイ、と引っ張っても離すつもりのない爆豪。強く握られているが、黒弦の硬度はそこそこ硬い。持ち過ぎると、手の平を切るぞ。
そう思いながら引っ張っているが離さない爆豪。微かに匂っていた甘い香りがだんだん強くなったのも気になる。出所はどこだ、と気にする俺の手に違和感。
少しだけだが、黒弦が湿っていた。

「(どういう事だ)」

手汗が原因ではない。そこまで緊張も恐れも抱いていないのだから。
微かに手からも甘い匂い。
そこで気付いた。この甘い匂いの正体が。

「言っただろ。勝つのは、この俺だァ!!」

バチバチと爆破を繰り返した途端、ボッと黒弦に火がついた。
しまった。

「くっ…!」

爆豪の本当の狙いはこれだったのか…!

≪爆豪、蒼天の紐に着火させたァ!!?オイオイ、どういう事だよ!!≫
≪爆豪の個性の爆破は汗がニトロみてぇな役割になっている。それを応用で、蒼天の黒弦に馴染ませて爆破して着火させたんだろう。さっきの攻防戦、ただ蒼天の策に嵌ったわけじゃなかった。逆に嵌ってたのは、蒼天のほうだったみてぇだな≫
「うっせーよ…!」

一言余計な消さんの言葉に笑みがこぼれた。俺もしてやられたと思ってたけど、冷静に分析すんじゃねーよ。解説者として働いてなかったってのに、ここぞとばかりに開設する消さん。でも墓穴を掘ったところもあるみたいで、「なるほど…!!つーか、黒弦って何だよ」なんてマイクさんに突っ込まれていた。
あっという間に俺の手元までに火が回ってしまい、使い物にならなくなった黒弦を手放す。その時、しまった、と思ってしまった。ハッと奴のいる場所に目を向けたが、時すでに遅し。

「こっちだよ、バァーカ!!!」
「!」

背後から聞こえた声。振り返ろうとした俺の眼前にあったのは、拳。
ゴッ、と鈍い音が会場に響いた。

≪爆豪、蒼天のスキを突いて背後に周り重たい一発ーッ!!流石の蒼天も予想できなかったのか、モロに一撃を食らったァァア!!≫

顔面に鋭い衝撃が走り、視界がぐらりと揺れた。倒れそうになったが、なんとか両脚で踏ん張った。どうやら爆豪は、引火させてすぐ俺の背後に回ったみたいで息は荒かった。

「…」

ツゥー、と何かが伝い、ポタリと滴り落ちた。ジクジク痛む頬。口の中が鉄臭い味いっぱいで、気持ち悪くなりそうで思わずペッと吐き捨てる。
それは赤黒い液体だった。

「………」

親指で口元を拭って、爆豪を見た。まだまだやれる、と目で訴えているように感じた。俺を倒すという目に、俺は身体が震えた。
口角が上がった。

「…フッ…」
「!!(な、んだ…今の…!)」

ああ、今が楽しくてたまらない。
黒弦が燃やされ、俺のスキを突いて一発お見舞いした爆豪。今までにない戦い方。
それは前世でもなかったもの。

「……」

さて、どうしようか。
小さく息を吐いて、俺は右手を上げた。俺の動き一つ一つに警戒する爆豪。
でもごめんな。

「すいませーん」

声高らかに、俺は言った。

「俺、こーさん」

会場が無言になった瞬間だった。

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