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「#幼馴染」のBL小説を読む
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▼ 糸と前世

「今更だけど、俺の個性を教えてやるよ」

静かになった会場で、俺だけの声しか聞こえない。長く伸ばした髪を一本抜いて、それを摘まむようにして持つ。空色の髪が光に反射して、白く見える。

「俺の個性は“糸”だ。俺自身の髪、もしくは皮膚から糸を生成する事が出来る」

ぐっと指先に力を込めれば、髪の毛は一本の糸に変わった。色や細さは変えていない。だから、観客の一番遠い場所に座っている奴には見えにくいだろう。モニターに映されても見えないはず。

「さらに、硬度や長さ、細さを俺の思いのままに生成できる」

細く白い糸から、太く長い糸へと生成を変更。一瞬で縄にも近い太い糸に、観客は騒めいた。これまでは今まで見てきた反応だった。ただの糸じゃなくて、硬度や長さを変えるとなれば、自分の使いたいものを想像して糸を生成したらいいのだから。
おかげでまだ小学校の時は、母親に糸を作ってくれとせがまれた思い出がある。ただの便利屋と化してたな、あの頃は。
それでもあの人の手助けになれてたなら、俺は喜んで使っていたよ。

「…俺が今手にしているのは、俺の手に馴染む硬度に長さ、細さのものだ。これで俺は、敵を捕獲することもできるし、敵の攻撃を防ぐ事も出来る」
≪つまり、攻防どっちにも優れてる“個性”ってわけだな≫
「……ええ、その通りです」

まさか消さんが割って入るとは思わなくて一瞬驚いたが、ニコリと笑って肯定した。俺の返答にさらに騒々しくなった会場のヒーローたち。この俺の戦闘スタイルを見れば、サイドキックとして使いやすいだろう。むしろ、俺の個性はサポートのほうが似合っているはずだ。
あの頃、前の世界じゃあそれが多かったから。
でも、まだ戸惑うことはあるからこそ俺を指名しようか悩むだろう。

「さて、それじゃあ今まで爆豪にしてきたのは何かを教えてやるよ」

ここからが本題。爆豪は構えを解かないまま俺の話に耳を傾けた。それが正解だ。流石はヒーローを目指しているだけあるな。
思わず俯き笑みを隠した。でも一瞬。すぐに爆豪に顔を向けて俺は再び個性の紹介をしてやった。

「俺の個性の生成条件には、まだ別の方法もある」
「……その方法で、俺を操ってたって事か」
「ご明察」

さっきまでの戦いのタネが分かった爆豪の言葉を思い出したのか、少しずつ「くっついていた」という単語が俺の耳に入った。
そう。前世じゃあなかったもの。それに似た事をしていたが、それが俺の個性としてあるとは思わなかった。

「糸を生成するもう一つの方法は、“相手に触れること”だ」
「!」

右手を上げて、何かを弄るように指を動かした。瞬間、ピクリと動いた爆豪の右腕。自分の意志とは反して、ぎこちない動きで上がったのだった。
それには会場の連中は目を瞠った。騒めきも一瞬だけ消えた。

「相手の衣服と、俺の皮膚をくっつけさせることで糸を生成することができる」

相手が気付かないうちに俺と繋がった糸は極細で、肉眼じゃあ見えないほどのもの。そう簡単に気付くはずがないのだ。
そうして俺は相手を操り人形にできる。

「本当だったら障害物とかあったほうが俺の個性をもっと活かせるんだけど、それが出来ないから残念だ」

くい、と指に引っかけるようにすれば上げていた爆豪の右腕が勢いよく地面に叩きつけられた。その轟音に驚いた観客たち。でも、音が派手なだけで見た目は痛くないはずだ。爆豪は爆破で緩衝材にしたみたいだから。予想していたのか、それとも咄嗟だったのか、それは分からないが流石だな。
思わず笑みが浮かんだ。

「こンのクソ糸野郎が…!」
「爆豪の言った通りだぜ。俺の個性は、簡単に人の命を失くす事ができる」
「……」
「この糸をピンとはって、自在に操れば俺の操り人形だ」
「!」

さっきみたいにバッと腕を広げてみせた。あの時の俺の行動が分からなかった彼らは、俺の個性を知ってしまえば何をしたのかを分かっただろう。爆豪も俺がしようとしていることを思い出したのか、構えた。
だが無駄だ。

「自分の手を汚すことなく、俺は相手を、敵を、地にひれ伏す事が出来る」
「がっ…!!」
≪蒼天、爆豪を操って地面に叩きつけた…!なんつーチートじゃ…≫

指をくい、と動かし、そのまま勢いよく地面に手を付ければ、素直に地面にべたりと這いつくばる爆豪。ドガァン、と音が聞こえて痛そうだと他人事に思う。
そんな動かないままの爆豪に俺は言った。

「俺の個性は、俺の手を汚さないまま味方同士で殺し合える事も可能なんだぜ」

感情のこもってない、酷く冷たい声が沈黙となった会場に響いた。
今までの俺の戦い方とは違っていて、観客は呆然。言葉を失うほどの俺の個性に、人々の目は好奇や贔屓から次第に化け物を見るようなものへと変わっていく。そんな視線がビシビシと伝わってくる。囁く声も聞こえちまいそうなほどだった。

「(胸糞悪ィ……)」

心操、お前は自分の個性が敵向きだとか言っていたが、そんな事ないよ。悲観しなくていい。充分、ヒーロー向きの個性さ。
敵向きっていうのは、簡単に人の命を奪う個性の事を言うんだよ。
けどよ…。

「こんな個性だと知っているから、俺は此処に来たんだっての」
「!」

爆豪を操っていた糸を緩めながら、顔を俯かせた。身体の自由を取り戻した爆豪は、もう油断しないといわんばかりの目つきで構えた。
本当、いい目をしていやがる。

「他人に俺の、この個性が敵向きだろうが恐れられようが関係ない。この個性は、どんな災厄からも、人を、俺の手の届く範囲の奴らを守るためだけに使いたいんだよ」

髪の毛を一本抜いて、黒弦を作った。
ゆっくりと顔を上げる。視線の先には、真っ白な包帯を巻いてこちらを見ているあの人。

「あの人の力になって、支えたい」
「……」
「だから、俺はここの頂点を目指す」

それは俺の意志表明でもあった。
黒弦であやとりをしながら、俺は爆豪に言った。

「だからよ、爆豪。俺に負けてくれよ」

挑発的な笑みを浮かべた俺に言われた言葉を数秒噛みしめた彼は――…。

「…ア゛ァ!!??」

今までない以上に目を吊り上げたのだった。

「ふっざけんじゃねーぞ!なんでこの俺がテメェなんぞのためにに負けなくちゃならねぇんだよ!!」
「えー、俺も勝ちたいからに決まってるじゃん」

ケタケタと笑う。爆豪は俺の言葉に怒っているけど、まだ警戒は解いていなかった。
それでいいんだよ。
ニッと口角を上げて俺は黒弦を爆豪に向けて放った。本当だったら障害物があったほうがやりやすいけど、それはないから仕方ない。爆豪は縄に捕まらないように爆破をして避ける。視界の入る黒弦を尽く爆破させているけど、目の前の事ばかりを気にしてたら意味ないぜ。

「後ろがガラ空き」
「!」

瞬歩で爆豪の背後に回って、隙だらけの背中に一発蹴りをお見舞いしてやった。声はあげなかったものの、痛みに顔を歪める爆豪。けっこうな威力を入れて蹴ったから、このまま場外負けになって欲しい俺だったけど…。

「こンの…クソ糸野郎が!!」
≪爆豪、爆破を逆噴射させて場外を防いだ!!そんな使い方もあるのかよ!!≫
「おお、すげぇ」

ギリギリ、ラインの内側に立った爆豪。そういう使い方もある個性って、すごいな。プスプス、と音を立てて低く構える爆豪。何か仕掛けてくるか、と黒弦を手に俺も構えたが、爆豪はゆっくりとその口を開けた。

「テメェの事情なんざ俺は知らねぇ。ただ一つ、言えンのは…」
「……」
「俺が優勝すんだよ!テメェに勝って、あの半分野郎にも勝って、俺が完膚無き一位を獲るんだよ…!!」
「…」

真っ直ぐな目に、俺は見覚えがあった。

「もう一回だ!カケル!!」
「あー!ずるいってばよサスケ!!俺もォ!もう一回!!」
「はー…元気だねぇ、お前ら…」
「カケルくん、無理しなくていいからねー」


最後まで諦めない、何度負けようが自分が勝つと信じている目。
俺の大事な仲間の目とそっくりだった。

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