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▼ 命を奪う個性

(緑谷side)

≪爆豪、本当にどうしたんだァ!!?≫
「……かっちゃん…!?」

今までに見た事のない試合展開に、僕は、ううんこの試合を見ている人達は始終唖然とさせられていた。
最初からかっちゃんは本気で蒼天くんを倒すつもりで仕掛けてきた。でも蒼天くんはそれを難なく躱して、その上かっちゃんの顔面を地面に叩きつけるという今まで誰もがしたことない事をした。それだけで僕たちA組は顔面蒼白になったほどだった。

「蒼天って、あんなに強かったのかよ…」

上鳴くんが思わずそんな事を言っていたけど、それに答える人は誰もいなかった。尾白くんは、何か知っている様子だったのか、蒼天くんがいきなりかっちゃんにした攻撃に苦笑を浮かべていたのは印象深かった。でも、ここまで強いとは思っていなかったみたいだ。

「あの爆豪が手も足も出てねぇなんて…」

見事にかっちゃんを翻弄する蒼天くん。今までの試合は、まるで肩慣らしだったかのような、切れのある動き。常闇くんとの試合で出たというあの瞬間移動は、かっちゃんの目にも止まることはなかった。
どうしよう…蒼天くんの個性を書く前に一ページ埋まっちゃいそうなんだけど…!!
かっちゃんが何度も爆破を繰り返すけど、そのうちに覚える違和感。僕だけじゃなく、皆も気付いたそれ。
かっちゃんの攻撃が、ワンテンポ遅れていた。不調、というわけじゃない。本人でさえも分かっていない様子だから、これはたぶん蒼天くんの仕業なのだろう。でも、蒼天くんの個性には、相手の攻撃を遅らせる、そんな事も出来るものだったの?
誰もが分かっていない、蒼天くんの個性。かっちゃんの攻撃が遅れているそのタネを明かさないと、かっちゃんに勝機はない。
でも、それは突然終わった。

≪爆豪、蒼天に攻撃するフリをして、自分の左肩に爆破しやがったァァァ!お前マゾなの!?≫
「ハァァ!!??」
「何で!?」

かっちゃんが突然、ってわけでもないけど、自分の肩を掴んで爆破した。
なんでまた自滅行為をするの…!?
僕が思っていることは、皆思っていたようだ。特に切島くんは、爆豪の不調に不満を抱いていたみたいで、野次を飛ばす程だった。肩から黒煙が立ち昇る。痛いはずなのに、痛そうにしていないかっちゃん。
彼は、笑っていた。

「ようやく、分かったぜ」

目を吊り上げ、口角を上げて言ったかっちゃんの言葉に、僕たちは理解できなかった。
でも、蒼天くんはその言葉の意味が分かっているのか、珍しく冷や汗を垂らしてかっちゃんを見ていた。

「テメェ、俺に糸をくっつけてやがったな」
「……ご名答」
「え…?」

すんなりと正解を言った蒼天くん。でも、かっちゃんの言葉だけだと、僕たちは話を理解できなかった。小さくため息を溢し、笑う蒼天くんにかっちゃんはイラッとしたのか、言葉を投げた。

「コソコソしやがって、テメェらしくてクソムカつくぜ」
「……どういう意味だ、それは」
「あ゛?なに惚けてやがんだ、テメェ。このクソ糸野郎、テメェ…慣れてんだろ」

戦いに、その個性の使った戦い方を。

「……」

かっちゃんの一言に、蒼天くんは笑みを消した。
ざわざわと、さっきまでとは違う観客たちを余所に、かっちゃんは荒げた声じゃなくて、淡々と落ち着いた声色で蒼天くんに言った。

「USJの時も、今も。テメェは、戦いに慣れてやがる」
「……」

その言葉に、ピクリと蒼天くんの左手がわずかながら動いた。
USJの事を言われても、別のゾーンに飛ばされた人たちは知らないだろう。でも、僕や、そして梅雨ちゃんや峰田くんはその光景を見ていたから分かる。覚えているからその意味が分かってしまう。
蒼天くんは、人との戦いを、人の殺し方を知っているのだ。

「今までの種目も試合も、本気出してもねぇ。俺達を格下に見て楽しかったのかよ、ア゛ァ!?」
「……」

かっちゃんの言いたい事が分かった気がした。
確かに、蒼天くんは今までの種目、全力を出していない。あれだけ皆が息を切らしてゴールしていたのに、一人だけ疲れていなかった第一種目。漁夫の利を狙って、最後の最後に逆転をした第二種目。そして、芦戸さんを場外にするために誘導させた作戦や、常闇くんを開始直後に場外にするという力を見せただけで、全力は出していない。
かっちゃんはそれに対して苛立っているんだ。

「…?」

その時、自分の身体の異変に気付いた。固定されていない、右手が小刻みに震えていた。
なんで…?
僕の様子を余所に、何も言わないだんまりな蒼天くん。そんな彼にかっちゃんはさらにムカついたのか、声を荒げた。

「何にも言わねェ!!そりゃそうだよな、図星だもんなァ!!テメェだって知ってんだろ!自分がした事、テメェの“個性”が、簡単に人を――――」

その時だった。
今までに感じたことのない何かが僕たちを襲った。

『!!』

不穏な空気。
この会場を覆い尽くすまでのそれは、僕たちの背筋に恐ろしい戦慄を走らせた。突風でも起きたような感覚は、ビリビリと肌を突き刺し、全身の毛穴を無理矢理こじ開けるほどのものだった。
言うなれば、殺気。
純粋な殺気。
ヒーローの卵である僕たちも感じるほどの殺気を、現役のヒーローたちが感じないはずがなかった。

≪てめぇら、武器を降ろしやがれ≫

ピンと張りつめた一本の弦のように僕たちを震わせる、淡々とした相澤先生の声が響いた。ハッと周りを見れば、所々で自分達の武器を手に、いつでも個性を発動できるように構えているヒーローたちの姿があった。
彼らの視線の先にいたのは、今までの戦い方からヒール扱いされていたかっちゃんじゃなくて、蒼天くんだった。
そこでようやく理解した。

「っ……」

この殺気を出したのは、蒼天くんだと言うことを。

(緑谷side終)



思わず漏れた殺気に、攻撃態勢に入ったヒーローたちがいるのが分かった。
今まで感じたことのない殺気だっただろう。生易しい殺気を浴びてきたが、俺の殺気はそんじょそこらの雑魚敵とは違うから、身体がとっさに反応したのだろう。
この世界は、俺が生きていたあの世界とは違う。何を今さらそんな事を認識してんだよ、俺。当たり前じゃねぇか。この世界の悪なんざ、忍の世界じゃ一番レベルの低いものだ。
今まで掻い潜って来た修羅場を忘れたのか。

「(忘れてたよ…)」

ぬるま湯につかっていた気分だ。
それほどまでに、爆豪の言葉は俺の中に響いた。

「お前って、見た目によらず他人をよく見てるよな」
「っ…」

当てられる殺気に、爆豪はピクリとも動いていなかった。それもそうだよな。たとえ中学の時に敵に襲われたと、タフネスだと言われようが、一番近くで殺気を当てられたことなんて無かっただろ。
貴重な経験をしてるな。
まぁ、そんな事はどうでもいいよな。

「確かに俺の個性は、お前の言う通り、簡単に人の命を奪えるぜ」
「!」

さらに重たい殺気を放つだけで自分が負けた瞬間を見てしまった爆豪は、目を見開いたまま固まってしまった。俺の殺気を感じやすい奴でもいたのか、会場の二、三人の気配が消えた。大方、気失ったのだろう。
これがヒーローなのかよ。

「……“人を守る”ってのが何なのか、分かってねーな」

呟いた言葉は、誰にも届かない。

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