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「#幼馴染」のBL小説を読む
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▼ 蒼天カケルの本気

あの日、俺は消さんに聞いた。

「俺、本気出していい?」

その言葉に、消さんは目を見開いた。包帯の隙間からでも分かる反応だけど、俺は真っ直ぐ消さんを見た。数秒、消さんは驚いてはいたけど、すぐに目を伏せて息を吐く。包帯だらけの身体。あの時を思い出す度に、俺は悔しくて拳を強く握るクセがついた。

「何で俺の許可がいるんだ、馬鹿野郎」

目を瞠ったけど、すぐに死んだ魚の目をして俺にそう言った消さん。

「……お前の実力を世間に見せつける年に一度の大舞台だ。もしお前が最後まで本気出さなかったら、俺は容赦なくお前を除籍扱いしてやるからな」
「…ありがとう」

脅し。でも、俺にとっては充分、鼓舞する言葉だった。
消さんに許可をしたのは、俺の力が危ないから。
俺の力は扱いを間違えれば、取り返しのつかない事になるから。
俺は自分自身に誓約をかけた。消さんの許可を貰わない限り、本来の力を使わないって。消さんや、俺の大事な人達が危ない目に遭わない限り、この力で敵を倒さないって。自分の勝手で、この個性を、力を使っちゃいけないって。
それほど、俺は人の命というものを知り過ぎていた。

≪んじゃ、さくさく始めようぜ!!≫

ようやくステージ上の氷が解け終わったのか、マイクさんが急かすようにアナウンスを始めた。歓声が響き渡り、心なしか身体が震えた。

≪いろいろとおっかねぇけど実力は確か!A組、爆豪勝己!!VS…、さっきの戦いといいお前ってば未知数すぎる!!A組、蒼天カケル!!≫

出鼻くじかれた。
まさそうやって俺の説明が酷いマイクさん。それ褒めてもない言葉で、俺恰好がつかない。思わず苦笑が浮かんだ。でも、俺の様子よりもマイクさんのアナウンスでさらに盛り上がる観客勢。勝ち進めば勝ち進むほど自分の個性をアピールするとかいうけど、トーナメントなだけあって勝つか負けるかの勝負事。文句も言われないガチンコバトルは、人々の胸を熱くさせちまう。

「ん?」
「……」

可愛らしい殺気を感じた。俺にそんな殺気を向ける奴といえば、この場では一人しかいない。俺と正面挟んで立つのは、相手をする爆豪。殺人鬼みてぇなおっかねぇ顔して、本当にヒーロー目指す奴の顔かよ…。
俺と目が合うと、さらにガンを飛ばす爆豪に一瞬瞠目。喧嘩を俺に売っているって分かれば、爆豪に怖気づくわけがない。

「フッ…」
「!」

挑発的な笑みを浮かべて、俺も構えた。

≪準決勝第二試合、START!!!≫

先手必勝。
言葉通り、俺に向かって爆豪は爆破の個性を活かして迫って来た。右手で爆風を生み速度を速め、そのスピードを殺さないまま左手で俺に向かって掲げた。
目で捉え切れない速さじゃなかった。

BOOM!!!

俺に向けて放てられた爆破。音が大きい分、威力もデカい。爆破で生まれた突風に近い方に居た観客たちが騒いだのが聞こえた。
特攻とは派手好きな奴だな。

≪爆豪、開始早々蒼天に一撃食らわせたァ!!つーか、煙幕ばっかだな本当によ!!≫
「…!?」

今までの戦いからそう言われる爆豪。まぁ、それがお前の攻撃スタイルだから仕方ないよな。
けど…。

「あっぶねーな。お前、容赦なく打ち込むのは切島みたいな個性を持った奴だけにしてくれや」

顔面目掛けて振り下ろされた手を掴み、爆破の軌道を逸らした。背後を一瞥してみれば、コンクリが抉れていた。汗の量に比例してくる爆破だが、まだ増してきそうな勢いだな。

≪蒼天、爆豪の腕を掴んで爆破の軌道を逸らしやがった!!≫
「っ…(動けねぇ…!!)」
「つーか、いきなり攻撃とかおっかねぇ奴。少しは肩の力を抜いてくれよ」

ポンポン、と空いていた手で爆豪の肩を優しく叩いた。瞬間、もう片方の手でもう一度爆破を食らわそうと動いた爆豪。俺が話している時に攻撃するとか酷すぎだろ。

「ま、そういう奴と戦うからこそ楽しいんだよな」
「!」
「隙あり」

ニッと笑って、爆豪の頭を掴んで地面に沈ませた。ドゴォン、と地面が割れた音がしたが、爆豪だから大丈夫だろ。俺のその攻撃だけで観客がどよめいていたが、そこまで驚くことだろうか。よっと、なんて声を漏らして爆豪と距離を置く。動かない爆豪に、ミッドナイト先生が試合を続行するか悩んでいる様子。けど、それはいらない心配だった。

「テンッメェェエ!!!」
「おお、復活早え」

BOOM!!と一際デカイ爆発をして復活。ボンボン小さく爆発をする左手を見て、俺は目を細めた。まだ手を痛めている様子はないみたいだ。
見た目怒っているが、頭はまだ冷静のようだ。俺を警戒していた。戦闘訓練の時は、短気な奴だと思っていたが、この体育祭の様子を見ていたら、そうではないとも分かった。妙なところで冷静なのは、自尊心が強い故か…。どちらにせよ、オレを警戒してくれているっていうのは、少し嬉しく思った。

「俺を警戒してくれてんのは、驚きだわ」
「……」
「嬉しいな。俺を特に気にしてねぇ様子だと思ってたからよ。……だからこそ、俺も」
「!(消え…)」

一歩。
一瞬で間合いを詰めて、爆豪の視界いっぱいに俺を映させた。

「本気で闘おうって思うんだよ」
「ッ!!」

瞬歩で詰め寄った俺を咄嗟に反応した爆豪は右手を振り下ろす。しかし、それはハズレ。

「後ろだ」
「!」

また一歩で、今度は爆豪の背後へ回る。声に反応出来たが、身体はまだ追いついていない爆豪の脇腹は隙だらけだった。横腹に一発蹴りを入れようと、足を構えた俺だったが。

「!」
「クソがァァァ!!!」

本能的に身体が動いたのか、俺の蹴っていない軸の足を爆豪は両脚で絡み捕え、脚力だけで体勢を崩してきた。流石にそれは予想していなかった俺は地面に倒される。その隙を逃すはずなく、爆豪はバチバチ爆破を繰り返したまま俺に振り下ろした手。

≪爆豪、隙を突いて猛攻撃ィィィ!!≫
「すっげぇ。でもよ…」

見えたはずのそれ。
シュル、と擦れる音が耳に入った爆豪が気付いた時には遅かった。

「俺の個性を忘れるなって」
≪蒼天、隠し持っていた紐で爆豪の攻撃を防いだ!!両者一歩もひかねぇ!!≫

俺の個性でもある“糸”。それは太さ、硬さ、長さを自由に決める、俺の相棒の武器を使うに持って来いの個性。本当だったら、先にクナイをつけているのもあるが、それはルール違反になるから持っていない。
この黒弦だけで、俺は此処に居る。

「クソ糸野郎が…、油断ならねぇなァオイ」
「俺をすぐに倒せると思ってんなら大間違いだぜ、爆豪」
「あ゛?」

自分を馬鹿にされていると思ったのか、ピクリと米神をひくつかせた爆豪。すぐキレるのどうにかしろよ。と言えば、うるせぇ!!!と投げ返された。なんでそんな性格になったんだよ、と内心思ったが、今はそんな事関係ないかと切り替えた。

「まぁ、まずはさ…」
「…!?」

黒弦を地面に落として、俺は手をバッと広げた。突然の俺の行動に、爆豪も、マイクさんも、観客の全員が驚いた顔になった。まぁ、自分の武器を放り投げて、無防備ともいえる体勢になったからな。
でも、俺は何もないわけではないんだよな。

「俺の手で、踊ってくれよ」

クイ、と手を動かした。
瞬間。

BOOOM!!

突然立ち昇る黒煙。

≪オイオイ…ば、爆豪の奴、どうしたァァア!!?≫
≪自滅したのか…≫

爆豪が行ったそれに、皆が唖然とした。
見ていたこの場に居る会場の奴等は口をあんぐりと開ける。自分の目を疑い、想像しただけでも痛いその行為に口に手を当て息を止めかけた奴もいた。
一瞬だけ生まれた無言に、俺は一人ほくそ笑んだ。

「ほぅら、踊れ」

俺の操り人形となって。

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