▼ 戦いたい相手
(緑谷side)
≪カァウゥンタァ〜!!!≫
二回戦第四試合がもうすでに始まっているみたいだ。リカバリーガールに治癒補助をしてもらった後、慌てて会場へと向かった僕は、A組の皆がいる席に戻る時間も惜しいと思って、客席の通路で立ち見する事にした。
「切島くんとかっちゃん…。ってことは、飯田くん対塩崎さん、蒼天くん対常闇くんは…」
ステージ上にはかっちゃんと切島くんが戦っていた。僕と轟くんとの間にあった二試合の結果を見て、僕はショックを隠し切れなかった。
「(ああ、やっぱり…。見たかった。…って、え、常闇くんが、負けた…!?)」
トーナメント表の太線が上に伸びていたのは、常闇くんじゃなくて蒼天くんだった。僕が思っていた予想とは違っていたから、意表を突かれた気分だ。
蒼天くんは、常闇くんの個性の“黒影”をどうやって対処したのだろう。やっぱり見たかった、チクショウ…。
後で誰かに、常闇くんに聞きづらいけど、聞いてみよう。そう思って、かっちゃんと切島くんの戦いを見ると、どうやらかっちゃんが苦戦しているようだった。
「緑谷くん!」
「!」
呼ばれて振り返ると、通路から現れたのは飯田くんだった。僕の姿を見て飯田くんは安心したように、表情を和らげた。
「手術、無事成功したんだな!ヨカッタ」
「うん、ありがとう」
でも、僕の事よりも飯田くんに聞きたい事があった。
「それよりどうやって塩崎さんのイバラに勝ったの!?」
「機動力に勝るモノなし!開幕“レシプロバースト”で背を取り場外さ」
なるほど。あの速さだと、止めたくても止めることなんて出来ないか…!
納得して、うんうんと頷いた僕に、飯田くんは見逃した二試合は後でVTRで確認できることを教えてくれた。それは助かる、と内心安心した。
けど、飯田くんはどこか浮かない様子。
「どうかしたの…?」
「俺と塩崎さんとの戦いよりも、常闇くんと蒼天くんの試合は、負けた本人から聞くべきだろう」
「え…?」
負けた本人って、常闇くんか聞いた方がいいってどういうこと?
理解できなくて、詳しく話を聞こうと思ったけど、飯田くんはそれ以上僕に言うつもりはないようで、僕から視線を外して、未だ決着がつかない試合に顔を向けた。
「…………ベスト4まで来たよ。君と轟くんの戦い、糧にさせてもらうぞ」
「………うん」
飯田くんの言葉に、嬉しいような悔しいような気持ちになった。僕の事を思ってくれているのは分かるけど、やっぱり負けた事が悔しいのか、素直に嬉しいとは思えなかった。
戸惑いながら、僕は話を少し逸らした。
「飯田くんの活躍、、インゲニウムも見てるかな」
「さっき電話してきたんだが…」
「あ、しだんた」
早い。
「仕事中だったよ。でも逆に良かった。ここまで来たらNo.1で報告しないとな」
凛とした顔で言う言抱くんに、僕は何も言わなかった。
≪ああー!!≫
僕たちの間にあった空気を一瞬に消すプレゼント・マイクの驚愕に上げた声。弾いたようにステージを見れば、切島くんがかっちゃんの攻撃をモロに受けて、痛みに顔を歪めていた。個性で防いでいたんじゃなかったのか、と目を瞠るけど、かっちゃんはどうやら切島くんの限界を見抜いていたみたいだった。
やっぱりかっちゃんはすごいなぁ…。
かっちゃんは切島くんに反撃させる暇を与えないほどの爆破を繰り返す。甘いニトロの匂いが此処まで来そうなほどの、爆破はだんだん大きくなってくる。そうして、重なる爆破に耐えれず切島くんは戦闘不能。
三回戦進出はかっちゃんに決まった。
≪これでベスト4が出揃った!!≫
モニターに映った轟くん、飯田くん、蒼天くん、かっちゃん。
全員A組。そして全員が、敵連合襲撃の時に恐怖に怯えず戦った人達。轟くんと戦った。飯田くん、かっちゃんは戦闘訓練で実力を見てきた。でも、蒼天くんだけは、分からない。
「……その人から手を離せ」
「次は、首を狩る」
あの時、敵連合襲撃の時の蒼天くんは、いつもの彼じゃなかったのは覚えている。リミッターが外れたように、怒りのままその糸を操っていた。
どんな実力か分からない。どれくらい強いのか、僕はまだ知らない。
でも、ただ分かる事は。
「(蒼天くんは、まだ実力を全部出していない…)」
かっちゃんとの戦いは全く予想がつかない。かっちゃんが勝つ、と思っている自分もいるけど、もしかしたらかっちゃんが負けるかもしれないって思う自分もいる。
誰もが予想できない蒼天くんの実力。
ドキドキするけど、早く見たくて仕方なかった。
(緑谷side終)
(相澤side)
≪飯田くん行動不能!轟くんの勝利!≫
「轟、炎を見せず決勝戦進出決定だ!」
炎を見せず、とマイクは言うが、果たしてそれが実力を見せつけるためなのかどうかは分からねぇ。緑谷は轟を煽るだけ煽って自滅の形で敗退。その時は普段使わない左の炎を見せた。合理性に欠ける戦い方を連続で見るとは思わなかったぜ…。
小さくため息を溢す。
「いやぁー、A組同士でも容赦ねー戦いだな!」
ステージ上の氷を溶かすのを待つ間、俺に話しかけてきたマイク。
「当たり前だろ。頂点を目指すなら本気でやるべきだろーが」
「キビシィィィ!!だが、その通り!!」
俺達だってヒーローを職業にやってんだ。なにふざけた事を言っているんだよ。マイクの言葉にため息を溢し、俺はじっとステージを見た。
もうしばらくかかりそうだな。ったく、自分の個性くらいコントールしろよ。
緑谷といい、こいつらは個性をぶっ放せばいいってもんじゃねーだろ。まだまだ指導していかねーとならないくらい、個性の使い方を分かっていないな。先が思いやられる、とまたため息を溢しそうになった時だった。
「次の試合、準決第二試合もA組同士の戦いだ!」
「……」
さっきの戦いとかで忘れかけていた、次の試合。
これもまた、観に来ているヒーローたちが注目している試合。
「おっ、どうやらステージの準備も出来たみてぇだな!んじゃ、さくさく始めようぜ!!」
「……」
マイクの声に歓声が上がる。
「いろいろとおっかねぇけど実力は確か!A組、爆豪!VS、さっきの戦いといいお前ってば未知数すぎる!!A組、蒼天!」
おい、お前それは失礼だろ。カケルに対する紹介が酷すぎる。
それでも、盛り上がる観戦客。特に文句も言えないのか、カケルは苦笑を溢す。一方、爆豪は殺人鬼みてぇな顔でカケルを睨みつけていた。ヒーロー目指すやつの顔じゃねーな…。
だが、そこまでカケルに殺意を向ける理由はなんだ…?
カケルも爆豪の視線に気付いたのか、目を丸くしたがそれは一瞬。挑発的な笑を向けたのが分かった。
「……」
その表情が見えた俺は、あの日のことを思い出した。
「ねぇ、消さん」
「準決勝第二試合、始め!!」
「本気、出していいですか?」
静かに俺に許可を求めたカケルの顔を。
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