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▼ 常闇VS蒼天

≪緑谷くん…場外。轟くん、三回戦進出!≫

冷やされた空気が瞬間的に熱されて膨張した後、ステージに立っていたのは轟だった。緑谷はステージの外、壁に叩きつけられていた。

「……」

勝ちたい気持ちよりも、相手に塩を送ってしまう気持ちが強くなったとは誰もが思いもしない事だっただろうに。俺だってまさか轟に本気を出させるとはいえ、あそこまで焚きつけるとは思わなかったわ。
対等な力で渡り合いたい。そう思わせる一戦でもあった。
観客席にいる奴等は緑谷が轟を煽らせるだけで終わったとか言うけど、こいつら本当にヒーローなのか疑いたくなった。策がない?別にいいじゃねぇか。ああやって本気を出させて、それでぶつかり合って負けたんだ。別に面白くない試合じゃなかっただろ。

「(つーか、緑谷はサイドキックなんてもので収まるとは思わないっての)」

オールマイトのような圧倒的な力。似ても似つかないその“個性”は、爆豪の言動からして幼い頃からあったわけでもなさそう。そういえば、海浜公園で会った時は“個性”のコントールの修行じゃなくて、体力トレーニングだとか言ってたな。すると、緑谷はまだ自分の“個性”を使いならしてないって事か…?
なんにせよ、緑谷はまた発展途中の奴って事か。
担架に乗せられ運ばれていく緑谷を眺めて、俺は目を細めた。
それから、二回戦第二試合を行うためにステージの修正を行った。セメントス先生が粘土のようにセメントを扱って綺麗にしたステージ上には、飯田とB組の女子が。
B組の女子は、上鳴を瞬殺で負かした塩崎という女子。彼女の個性はツルで、飯田をツルで捕まえて場外を狙っていたようだが、それは飯田も同じだった。

「レシプロ・バースト!!」

個性で、目で追えない速さで塩崎の背後に周り、そのまま足で止める事の出来ないスピードで場外へと出したのだった。彼らしい、女性に対しても優しい戦い方だった。

≪塩崎さん、場外!飯田くんの勝利!≫

あっという間に決着が終わった。
どちらも自分の個性を十二分に発揮させた戦いだったが、ツタの速さと飯田の足の速さじゃ、飯田のほうが勝っていたとしか言えなかった。

「つーか、瞬殺にもほどがあるだろーよ…」

緑谷と轟とは大違いだ。一礼してステージを後にする飯田の後ろ姿を眺めて、すぐそばで待機していた常闇を見た。
おいおい、もう俺の出番か。
待つ間もなく第三試合が始まろうとしていた。

≪あっという間に終わっちまうから早すぎだってのお前ェら!!んじゃま、次に行くぜ!第三試合≫

プレゼント・マイクのアナウンスが始まり、俺は足を進めた。

≪一回戦目はあっちゅー間に相手を場外に押し込んだ黒影を操る男!!ヒーロー科、常闇踏陰!VS、一回戦目お前俺の心臓止める気だったのかよ!!ヒーロー科、蒼天カケル!≫

待ってなにその言い方。
あまりの酷い紹介に俺はずっこけそうになった。俺の紹介じゃなくて、それマイクさんの感想じゃんか。俺がどんなのとか、特にないじゃねーか。

「もうちょっと別の言葉無いのかよ……」

ため息をついてもおかしくない。
やる気を削がれたけど、そうも言っていられない。俺と対面するお相手、常闇は俺をじっと睨んでいた。俺を倒して上へ目指す、そんな気迫すら感じた。
その目に俺はゾクゾクした。
胸が躍る。忍としての俺が囁く。倒していい、と。こいつには力をぶつけてもいいと。本能が叫ぶ。
だが、悪いな。そんな事は許されねぇ。

「(ヒーローを目指すなら、俺の本当の力を使うべき相手は違うだろ)」

笑いそうになるのを抑えるため、俺は俯いた。

「……」
「(笑っている…?)」

ごめんな、常闇。先に謝らせてくれや。
俺とお前の個性じゃ、ちょっとだけ俺のほうに分が悪い。真正面からやり合うとなれば、俺のほうが先に限界が現れるだろう。俺の個性は、障害物があってこそ本領発揮するものだ。
それに、俺は戦いたい奴が一人いるんだ。
俺の実力を知らない奴が、此処には多すぎる。俺の力を知っているのは、まだ消さんしかいない。俺を近くで見てくれたあの人にしか、俺の実力は分からない。
けどそれだけじゃ駄目だ。俺の実力を見て、知ってもらわなくちゃならねぇ奴がいる。俺を楽しませてくれるだろう奴等に、そしてアイツに、俺の力を見せて策を考えてほしい。
だからごめんな、常闇。

≪第三試合、START〜!!!!≫

一瞬でケリつけさせてくれや。

ドガァァアン!!!

『……』
≪………≫

会場が一瞬で無言になった。
なにが起きたのか分かってないのは無理もない。瞬き一つしたその一瞬で勝敗は決まってしまったのだから。
あれだけ盛り上がった歓声が、ピタリと止まった。

≪……え?≫
「……悪いな、常闇」

風圧で乱れた髪をそのままに、俺は壁に叩きつけられた常闇に謝罪したのだった。

≪な…、え…!?ええぇぇえ!!!??≫

声を上げ、一番最初に驚きのリアクションをとったのはマイクさんだった。観客は皆、口を大きく開けて、目を見開いたまま固まっていた。
このままずっとするはずわけにもいかなくて、俺は審判であるミッドナイト先生に声を掛けた。

「先生、審判」
「っ、あ…、常闇くん、場外!三回戦進出、蒼天くん!!」
「……」

審判のコールが鳴ってようやく我に帰った観客たちは、そろいもそろって驚きの声を上げたのだった。何が起きた、とか見えなかったという大人たち。俺に注がれる視線をウザったく思いながら、審判に礼を言って常闇の元へと歩み寄った。

≪オォイィィイイ!!!なんだよ!!何が起きたんだァ!?≫

俺の瞬歩を初見で追えたのは一人もいないだろう。あの人は、俺がこうすることを分かっていたかもしれないが。戸惑いながらも次へ進もうか悩むミッドナイト先生やマイクさん。とりあえず、何が起きたのか気になるのか、スローで観るという。モニターに映された俺の動きを横目でとらえつつ、俺は常闇に手を差し出した。

「全く…視えなかった……」
「悪ぃ。クラスメイトでも、身のうちを全て晒すわけにはいかなくてよ」
「くっ……」

常闇を起こして、俺は放送席を見た。マイクさんは未だに何か騒いでいるが、その隣では顔色一つ変えないでいる消さん。彼と目が合うと、スゥと目を細められた。
お、あれは呆れてるな。
消さんは俺が常闇との戦いを避けたっていうのに気付いているみたいだ。流石、分かってるなあ。とか思って笑った後、続いて別の観客席を見た。
普通の場所から少し遠い、俺のクラスメイトがいる席の端っこ。

「……ふっ」

俺の動きが見えなかった事に驚いている彼に笑みを見せてから俺はその場を後にしたのだった。

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