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▼ 負けるという事は

≪ああ麗日…ウン、爆豪一回戦とっぱ…≫
≪やるならちゃんとやれよ≫

声からして心底残念といっているプレゼント・マイクのアナウンスで、一回戦第八試合の終わりを知らせる。
そんなマイクさんの言いたい事も分かるっちゃあ分かるかもしれないが、流石にフォローもできないな、コレは。苦笑が漏れた。

≪さぁ気を取り直して!一回戦が一通り終わった!!小休憩挟んだら引き分けた切島と鉄哲の再試合やって次行くぞー!!≫
「……」

麗日と爆豪の試合は、結果爆豪の勝利で終わった。
結果だけ見れば、そうなるだろうな。なんて思うかもしれないが、過程を見ればそんな言葉は出ないだろう。
麗日は自分の限界を知っている上で、自分にしかできない技を使って策を練って闘いに挑んだ。称賛に価するものだ。自分に注意を散漫させて、頭上にあるそれらを気付かせないような策は、そう簡単に出来ないだろう。爆豪の“個性”を自分の策に使わせて、さらに自分の“個性”で攻撃へと転じる。
よく考えたもんだわ、本当。

「(だが……)」

爆豪はそれすらも考慮していたとはな。
決して麗日を舐めていたわけじゃなかった。見下さないで、油断もしないで、最初から全力で、麗日を対等の相手として見て戦っていた。人間ってのは、自分より弱い奴だと思うとすぐに舐めてかかる。だが、爆豪はそれをしなかった。その姿勢ってのは、そう易々とできるもんじゃない。

「面白いな…爆豪」

フィールドを後にする爆豪に視線を向けた。
もし、アイツと戦えるとすれば、次の試合に勝つしかない。俺の相手は常闇だったはずだ。影を使うアイツに、さてどうしようかと策を何パターンも考えながらぬるくなったコーヒーを一口飲んだ。

「あれ、蒼天くんやん」
「ん?」

ふと声を掛けられた。横へ見れば、こちらへ歩いてくるのは、同じクラスの、さきほど戦っていた女子。

「お疲れ。麗日」

俺は笑ってそう言った。
麗日の目は、お世辞にもいつもの可愛らしいものではなかった。きっと悔しさで泣き腫らしたのだろう。大きな目が細くなっていた。

「なしてここにおるん?みんなのところに行かへんの?」
「ああ。ここで見たくてな」
「……そっか」

そう言って、麗日は少しだけ俺の隣で観戦しようと並んだ。すでに第七試合の再試合は行われており、フィールドの真ん中では切島とB組の奴が腕相撲で勝敗を決めようとしていた。

「爆豪を翻弄させて、カッコよかったよ」
「…でも、負けちゃった……」
「負けたら、何もかも終わりなのか?」
「え…」

悔しいだろうよ、そりゃあ。ヒーロー目指す奴は皆、頂点を目指している。爆豪だって同じだ。だけど、勝った奴だけに道があって、負けた奴には残るものはないっていうのはおかしい気がした。
麗日は俺の言葉にこっちを見たが、その視線を受けるだけで俺は真っ直ぐ前を、切島の試合を見ながら続けた。

「負けて得るものが多いだろ。勝って得るものは少ないよ。あったとしても自信くらいだよ」
「蒼天くん……」
「負けて、自分の弱さを知って、次は負けねぇって思う気持ちが生まれて、強くなろうって決意して、そして努力をする。麗日は、今日それを知る事ができた」
「………」
「そうだったらさ、もうそんな顔はするなよ」

ニッと笑って見せれば、麗日はもう枯らしたと思っていた涙を目尻に溜めていた。でも、俺の言葉に涙を拭って、いつものうららかな表情を見せてくれた。
やっぱり、その顔が一番お似合いだな。

「ありがとう、蒼天くん!うち、これからもっと、もっと頑張る!」
「おう。俺も、麗日の分まで頑張るよ」

残ったコーヒーを全部飲み干して、すぐそばのゴミ箱へ投げてホールイン。すると、麗日は「うちも応援するね!」と俺に言ってくれた。それだけでも頑張ろう、なんて思えるから言葉って不思議だよな。
麗日に背を向けて、俺は手を上げてその場を後にした。



(緑谷side)

≪今回の体育祭、両者ともトップクラスの成績!!緑谷対轟!!まさしく両者並び立ち今!!≫

自分と向かい合わせになり立つのは、今朝、クラスで一番実力のない僕に宣戦布告してきたクラスで一番の実力者。普段以上に鋭い眼光が僕に向けられる。
でも、その目の先には…。

≪START!!!≫

会場に響き渡る声援と始まりを知らせるプレゼント・マイクの声。すぐに構えた僕に、速攻を仕掛けてきた轟君。今までの試合や、彼の今まで行動パターンから予想して、僕に襲い掛かったのは氷結だった。それを僕は破壊した。一度だけじゃなく、二度も。

「…っ……」

怯む暇もない。考えさせる間もなく、氷結が襲ってきて、僕は迷わず指に力を込めて、弾かせる。指の骨が粉砕する感覚が伝わる。痛みが半端ない。今すぐ泣きたいくらいだ。でも、逃げる事は出来ない。この氷結を避けるスピードを僕は持ち合わせていない。だったら、生半可な防御じゃなくて、全てを粉砕するこの“個性”で、氷結を壊していくしかない。
でも、僕にも限界がある。この指、この腕が使えなくなった時、轟くんが立っていたら僕に勝機はない。それまでに轟くんの弱点を見つけなくちゃ。

「耐久戦か、直ぐに終わらせてやるよ」

僕の考えは轟くんに簡単に読まれてしまった。この氷結に捕まったら僕は負けだ。決勝にもいけないまま、僕は負ける。それでも、すごいと思ってしまう。轟くんは、本当にすごい。個性だけじゃない。判断力、応用力、機動力、すべての能力が強い…!
防戦一方となっている僕に、観客席にいるヒーローたちの声が聞こえた。轟くんの実力を見て、プロ以上だ。とか、No.2の息子だ、とか。
すごいな。本当に、カッコイイ。
あんな個性、羨ましいと思ってしまうのは、無個性としての性なのか。

「なんだよ。守って逃げるだけでボロボロじゃねぇか」
「………!」

その時気付いた。轟くんの身体の異変。右腕がわずかながら震えていた。なんで、とか思ったけど、すぐに答えは出た。
そういうことか…っ…チックショー…!

「悪かったな。ありがとう緑谷。おかげで…ヤツの顔が曇った」

僕を見ていないまま話す轟くんの視線の先にいたのは、観客席の通路で仁王立ちする男。
No.2ヒーローであり、轟くんの父親。
なんだ。今までの彼から、気付いてなかったのか僕は。轟くんは、最初から僕や、僕たちを見ていなかったんだ。ただ自分の憎い男の顔が苦渋に満ちたものに変わるのを、自分自身に受け継いだ彼の“個性”を否定していただけ。

「その両手じゃもう戦いにならねぇだろ。終わりにしよう」

白い息を吐く轟くん。もう一つの“個性”を使えば問題ないはずなのに、轟くんは使わない。使うつもりなんか毛頭もないんだ。
なんだよそれ。なんなんだよ。

「どこ、みてるんだ…!」

壊れた手をもう一度使った。もう衝撃波は来ないと思っていた轟くんだったけど、突然の突風に受け身を取れずにそのまま後退。ラインギリギリで止まったけど、僕が攻撃したことで、ようやくこっちを見てくれた。

「その震え、左側の熱を使えば解決できるんだろ?」

今目の前の人間と戦っているくせに見ていない轟くん。その上、右だけの個性で勝つ?それって、つまり全力で戦うつもりはないってことじゃないか。皆本気で戦っているんだ。麗日さんも、操くんも、皆、全力を出してぶつかり合って、此処に立とうと努力していたんじゃないか。
なのに、君だけ全力で戦わないなんて、ふざけてるじゃないか。

「みんな本気でやってる…。目標に向かって一番になるために」

かっちゃんは自分自身に追いつめるように一位になるって宣言した。麗日さんは本気でやって、かっちゃんにまけて泣いた。悔しかったから。一位になりたいって心の底から思ったから。
でも、轟くんは違う。

「半分の力でかつ?まだ僕は君に傷一つつけられちゃいないぞ!」

使い物にならない両手。激しい痛みが身体中を駆け巡る。けど、痛さを気にしている余裕はない。ううん、気になるわけがない。この痛みは、彼によってのものじゃない。僕が、僕自身につけた痛み。この“個性”を使う代償。
まだ足がある。腕がある。大丈夫、僕はまだやれる。

「全力で掛かってこい!!」

だから、君も全力で僕と戦え!

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