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▼ 蒼天の実力は

(緑谷side)

「あ、芦戸さん場外!!二回戦進出!蒼天くん!!」

あまりの一瞬の出来事に、僕は声を出す事も出来なかった。咄嗟に鉛筆を落としてしまうほど。それは、一緒に見ていたA組の皆も同じだ。ううん、違う。
観客全員が何が起きたのか分かっていなかった。
芦戸さんの勝ちで終わると思っていた試合は、最後の最後で僕たちの予想を裏切った。

「…」

不敵な笑みを浮かべて佇む蒼天くん。

「どうなってんだよ…今の……」

僕たちが思っている事を代弁してくれたのは峰田くんだった。あんなにも私欲だらけの発言をしていた彼だったけど、試合の急展開さに驚きを隠せていないみたいだ。

「え、え!?い、今の何!?」

自分が場外になった扱いに悔しがるよりも、その前まで起きていた出来事のインペクトが強かった様子の芦戸さん。蒼天くんは、ん?と首を傾げる素振りをみせるだけ。どうやら答える気はないみたいだった。

≪すっげぇ試合だったぜ…一瞬ひやってしたけどよ…≫

試合の感想を述べるプレゼント・マイクだったけど、何かを思い出したのか、解説役の相澤先生に声を掛けた。

≪そういえば、お前、なんであの時蒼天が偽物だって分かったんだよ≫

その言葉が耳に届いて、僕は思わず放送席に目を向けた。そして僕と同じように、A組の皆も放送席にいある相澤先生の言葉を待った。

≪…あれは蒼天の“個性”で作られたダミーだ。瞬時にダミーを作って、自分は気配を消す。一切感じさせねぇもので、薄々気付き始めた奴は違和感を感じたのも無理ねぇよ≫
≪ダミィ!?蒼天の“個性”そんなにすごかったか!?≫
≪ま、奥の手ってヤツだろうよ≫

相澤先生の言葉にプレゼント・マイクは「蒼天やるじゃねぇかァ!!」と感嘆の声を上げていた。皆も相澤先生の解説に、なるほどなんて声を出していた。
でも、なんでだろう…。
歓声を浴びる蒼天くんは観客席に手を振ったりしている。芦戸さんは悔しそうにしていたけど、スッキリしている様子でもあった。いや、あれは安心した表情。きっと、自分の“個性”で蒼天くんが怪我を負ってないって分かったから。

「(まだ、蒼天くんは何かを隠してる気がする…)」

芦戸さんと握手を交わす彼の眺めながら、僕はそんな事を思った。此処で奥の手を出すって、そこまで接戦だったようには見えなかった。蒼天くんは余裕の笑みだったし、まるであそこまでの流れを予想していたように思えた。気のせいかもしれない。でも、蒼天くんはクラス一の曲者だと僕は思っているから、直感にも近いこの考えを無視することは出来なかった。
考え事をしていたから気付かなかった蒼天くんの表情。

「(さーて、俺に本気を出させてくれる相手は出るかな…?)」

目をギラギラさせて、楽しそうに笑う彼を。

(緑谷side終)



第一試合が終わった俺は観客席に戻らないで、人気が少ない場所へ向かった。スタジアムのすぐそばの雑木林。リラックスしたり精神統一するにはもってこいの場所。

「ふぅ……」

木の上にジャンプ一回で上って、軽く伸びをする。首を回せばボキボキとなる骨。小さく息を吐いて、じっとスタジアムを見つめた。
さっきの試合で早くも“変わり身の術”を出すとは思わなかった。
油断していたわけでもない。できれば怪我をさせたくないって気持ちがあって、小突いて場外を狙おうと思っただけ。けど、流石はA組に選ばれただけある。広範囲にわたる酸を出すとは思わなかった。
おかげで瞬時に黒弦で身代りをつくって、俺は気配を消して頭上へ。その後、消すのをやめて芦戸の背後から小突いて場外にさせたってわけだが…。

「面白いなぁ…」

俺のシナリオ通りになるのはつまらないから、楽しませてもらった。笑みを浮かべ、俺は髪を一本抜いて黒弦に生成する。

「……」

あやとりをしながら、次の対戦相手は誰かなんて考える。この後、常闇と八百万の試合、切島とB組、そして最後が爆豪と麗日の試合だったはず。
きっと常闇が勝つだろう。
八百万は成績がいいが、対人としての経験は低い。彼女の個性は物体の素材やらを考えて戦わなくちゃいけねぇから少しでも時間がかかると負ける。一方で常闇は、あの影を使って戦う。いや、影が常闇の代わりに戦う。あの影は意思を持っていたはずだ。そうなれば、目に見えている。
爆轟と麗日も、結果じゃあ爆豪が勝つだろう。麗日はレクリエーションの時に緊張を解そうとしていたけど、無理だったはずだ。何もできないまま負ける可能性はあるかもな。けど…、もしかしたら…。

「…」

ワァァ、とスタジアムが盛り上がる。常闇と八百万の戦いが終わったようだ。ここまで来たけど、やっぱり爆豪と麗日の試合が少し気になるから行ってみようか。
切島とB組の試合は引き分けになるだろうから特に興味はない。

「飲み物でも買って行くとするか」

スタジアム前で開かれる屋台を横目にそんな事を呟いて、俺は財布があるのを確認してそっちに足を向けた。屋台のおじちゃんにコーヒーをもらって、俺はA組の連中がいる場所にはいかず、通路で佇んだ。
試合はまだ切島だった。けど、ただの殴り合いになっている試合はどちらが倒れるかを待つようなものだった。

「熱い男達だなぁ」

コーヒーを飲んで、俺は笑う。
それから待たずに両者ダウンとなった。搬送して、意識を取り戻した後、簡単な方法で勝敗を決めるらしい。そこはもう一回とじゃないのか、なんて思いながら、俺は今から行われる試合を待つ。
切島たちを搬送し、少しの間があってから…。

≪一回戦最後の組だな…。中学からちょっとした有名人!!堅気の顔じゃねえ。ヒーロー科、爆豪勝己!!対…俺こっち応援したい!!ヒーロー科、麗日お茶子!≫

私情を含めつつ、マイクさんはアナウンスした。

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