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▼ 思い出す空気

トーナメントの組み合わせが決まれば、レクリエーションが始まった。普通の体育祭らしい競技ばかりで、楽しめるものばかり。大玉転がしや借り物競争もあって、トーナメントに進めなかった者は悔しさを競技の一位を取って気分転換をしたりした。一方で、トーナメントに進出する者は、気持ちを紛らわせたり、休んだり、神経を研ぎ澄ませたりして、それぞれの思いを胸にその時を待っていた。

「蒼天」
「ん?」

俺はというと、レクリエーションに参加する気はなくぶらぶらとスタジアム内をふらついていた。全国各地から呼ばれたヒーローたちを一堂に会することなんてないからなぁ。
そう思っていると、誰かに名前を呼ばれた。振り返り反応すれば、尾白が。

「緑谷に伝えたのか」
「ああ」
「そっか。アイツ、少しは楽しませてくれるかねぇ」
「緑谷しだいさ。俺が知ってる情報は全部教えたしな」
「尾白ってば、優しいな」
「そうでもないよ」

尾白は笑う。
けど、俺はそう思う。心操の“個性”を教えて、少しでも対策をしようと手助けしている。自分のプライドが許せなくて、俺や緑谷に託すのはカッコ悪いって尾白はいうけど、俺は恰好いいと思う。そうやって、他人のために助力しているんだから。

「それじゃあ、俺はちょっと外行ってくるわ」
「おう。蒼天」
「ん?」

ぐっと、拳を前に突きだした尾白。

「勝てよ」

強く、気持ちを込めて言った。
一瞬目を見開いたけど、俺は一度目を閉じて、しっかりと尾白を見た。

「おう」

不敵な笑みを浮かべて。

***

「………」

一人、俺はスタジアムから少し離れた雑木林へ来ていた。周りに人の気配はなく、自然の音だけが俺を包み込む。何度か深呼吸をして、瞑想に入った。
あの頃から変わらない修行の一つ。
いつ何時も、心を乱してはいけない。常に冷静に物事を見て、突破口を見つけ、何が最善で、何を最優先にすべきかを考える。それが俺のモットーでもある。今からの試合、武器は使えない。俺の“個性”と体力のみで闘わなければならない。
今まで自分で制御かけていたけど、今からはそんな事をしなくてもよくなるんだ。

≪瞬殺!!あえてもう一度言おう!瞬・殺!!!≫

どれくらい経ったのか、マイクさん声が聞こえた。続けて聞こえたのは、「二回戦進出、塩崎さん!」という主審の声。塩崎、というと上鳴の相手だったB組の子。つまり、上鳴は負けたということか。相手を舐めてたのか、それとも一撃必殺で放電したのか。どちらにしても、瞬殺だったとは呆れるものだ。
そして次に行われるのが飯田とサポート科の子であることを思い出す。そうすると、その次にあるのは俺と芦戸の試合。

「……そろそろ行くか」

静かに立ち上がり、俺は控え室へと向かった。
多くのヒーローが試合に夢中だった。自分のサイドキックに将来有望なのはいるかどうかをかなり悩ませているようだ。今年の生徒はどの科も強者揃い。ヒーロー科だけが金の卵じゃない。心操然り、泣く泣くヒーロー科を落とされた奴だっている。もしかしたら、ヒーロー科よりもすげぇ奴だっているのかもしれない。
もう少し自分の“個性”をアピールする場があってもいいとは思うが、時間とか諸々の都合上難しいのだろう。
だからこそ、皆が必死になる。必死になってアピールするから、ヒーローもちゃんと見ようと思うのだろう。
夢を持つからこそ、人は前へ進む。
夢が無いものは、見えるものも無く立ち止まったまま。

「……」

俺はどっちなんだろうな。

≪発目さん場外!!飯田くん、二回戦進出!!≫

少し盛り上がっていたようだったが、試合終了のコールが鳴った瞬間に飯田の「騙したなああああ!!!」という声が聞こえた。
え、どんな試合だったの?
そう聞きざるを得ない飯田の悲痛な叫び。少し見ればよかった、と後悔しつつも、俺は入場口へと立った。どうせここにいたら飯田に会えるだろうから。
ひと悶着あった後、勝ったというのに肩を落とす飯田がこちらへ戻ってきた。

「飯田、お疲れ」
「ああ、蒼天くんか……」
「…え、なに、何でそんなに暗いの?そんなに嫌な事でもあったのか」

思った以上のブルーな飯田に俺は瞠目。切れの無い動きの飯田は珍しいぞ。飯田は俺の言葉に反応もしないまま、「サポート科の彼女は、もう信じないぞ…」とぶつぶつ言いながら控え室へと向かって行ったのだった。
本当にどうした事よ。
気になるけど、後で尾白に聞けばいいか。とすぐに切りかえて、俺はゲートの前に立った。

≪立て続けに行くぜぇ!!第5試合!!≫
「……」

いよいよ、俺の出番。
なんだろうな、この気持ち。久しぶりだ。昂る気持ちを抑えることが出来ない。懐かしいんだ。理由は分かっている。
あの頃、俺が忍として生きていた時代にあったものと似ているからだ。

≪長い髪を結って颯爽と現れるは謎に包まれた少年!そういや個性あんまり使ってねぇな!!ヒーロー科、蒼天カケル!≫
「ちょ…」

マイクさん。そんな説明あんまりじゃないか?
なんでそんな俺をミステリアスなキャラにしようとしてるのか分からないんだけど。出鼻をくじかれたみたいで、思わず苦笑を漏らした。

≪VS、あの角からなんか出ンのォ!?ねぇ出ンのォ!!?ヒーロー科、芦戸三奈!≫
「ニッヒヒ…!一回戦は楽勝だね!!」

ニヤリ、と自分の勝ちと決めつける芦戸。
こらこら、敵を軽んずべからずって言葉があるだろう。
俺の事をそんな舐めてもらっちゃ困るんだけど。青山だったら舐めても問題ないけどよ。

「そうやって油断すると、足元掬われるぜ」
「そんな事ないもんねー!勝つのは私なんだから!」
「ほーぉ…」

強気で来ている芦戸は、何か作戦でもあるのだろうか。俺の“個性”を封じる策でも。
それを素直に教えるはずもないだろうから…。

≪さァ行ってみようかァ!!第5試合、スタートォ!!≫

俺がその策に乗ってあげようじゃないか。
中忍試験を思い出す空気に、俺は小さく笑った。

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