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第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
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▼ 最終種目・トーナメント

尾白は最終種目を辞退する、と俺に教えてくれた。チャンスとプライドをどっちを取るのかと迫られ、尾白はプライドをとったのだ。男の中の男だと、俺は尊敬した。ここまで芯を強く持っている奴なんてそうそういないから。
そんな彼と昼飯を一緒に摂って、俺は寄るところがあるといって尾白と別れた。まだ時間があるから、少しはゆっくり出来るはず。尾白と別れ、俺が向かったのは放送席。俺が会いたいと思う人はそこで寝ているだろうから。

「お、やっぱり居た」
「……何の用だ」

しかも起きてた。いや、起きてると思っていたから、何も言わないで俺は笑う。
相変わらずミイラ男みたいな恰好だ、と言えば五月蠅い、と一蹴。つれないなぁ、とこぼしつつ、俺は寝転ぶ消さんの近くへしゃがみ込んだ。

「俺の雄姿見てた?」
「ずっと見てるはずねぇだろ」
「でも見ててくれてたんだ」
「たまたまだ」

テンポよく会話をする。こんな光景、A組の連中が見れば驚くだろうな。なんて思いながら、目を閉じたままの消さんを見つめた。

「最終種目だぜ」
「一位になれ」
「おう、そのつもり」

間髪入れずに答えると、ゆっくりと目を開けて俺を見た。目が合った。
消さんはそれから俺に何も言うことはなく、再び仮眠に入った。これ以上居ても意味ないか、と思った俺は、消さんにじゃあな、と一言告げてから放送席を後にした。出て、生徒席の方へと向かう途中で俺は意外な人と遭遇した。

「……よぉ」
「……」

第二種目で一緒のチームだった心操。
仏頂面で、まるで周りを警戒している野良猫みたいだ。なんて思いながら、俺は声をかけた。けど、俺を一瞥するだけで心操は見事に俺を無視。呼び止めるつもりは俺にもないから、無視か、とただ思うだけでそれ以上声を掛ける事はしなかった。すれ違って、何も起きることなく、俺たちは自分達のクラスへと向かったのだった。
そうして、昼休憩は終わった。

≪最終種目発表の前に、予選落ちの皆へ朗報だ!あくまで体育祭!ちゃんと全員参加のレクリエーション種目も用意してんのさ!≫
「……え?」
≪本場アメリカからチアリーダーも呼んで一層盛り上げ……、ん?アリャ?≫
≪なーにやってんだ……?≫

盛り上げようとしたマイクさんも、その目に映った光景に目を丸くした。消さんも呆れたような声を出して、スタジアムが騒めいた。

「…誰がさせたんだよ…」

俺も額に手を当てて、ため息を溢した。

≪どーしたA組!!?≫

誰の差し金かだいたいの見当はつくが、A組女子がチアの恰好をしているのだった。
アメリカから呼ばれたチアの服装と同じなのは、きっと八百万が出したんだろうと推測できる。あまりにも突然の光景に、チアの恰好をした彼女達も茫然と突っ立っていた。

「峰田さん、上鳴さん!!騙しましたわね!?」

だよな。そうだよな。お前らだよな、知ってた。
うひょー、と鼻息荒くして親指立てる二人に俺は冷めた目で見るしかなかった。私利私欲のためによくもそんな嘘がつけるもんだな。健全な男子高校生なら仕方ないのかもしれないけど、流石に場を考えろよな…。

≪さァさァ皆楽しく競えよレクリエーション!それが終われば、最終種目≫
「………」

その言葉に、俺は心を静かになったのが分かった。

≪進出4チーム総勢16名からなる、トーナメント形式!!一対一のガチバトルだ!!≫

そして、気持ちが昂るのが分かった。
毎年最終種目であるトーナメントは、雄英に通う生徒の憧れの舞台でもある。自分の“個性”をスタジアムだけでなく、テレビを通じて全国のヒーローにアピールする絶好の機会。夢に抱いていた舞台で、自分達も立てることすら感動ものだろう。

「それじゃあ組み合わせ決めのくじ引きしちゃうわよ。組が決まったらレクリエーションを挟んで開始になります!」

レクリエーションに関して、進出者の参加の有無は個人の自由とのこと。気分転換に参加してもいいし、参加しないでトーナメントに集中することにしてもいいそうだ。
そう説明を受ける中、俺は尾白を見た。尾白も俺の視線に気付いたのか、こっちを見て、一度頷いた。
やっぱり、そうするのか。

「……」

なら、俺は何も言わない。
ふっと俺は目を閉じて笑った。

「んじゃ、1位チームから順に…」
「あの…!すみません。俺、辞退します」
「!!」

尾白は自ら棄権することを宣言した。動揺が走り、緑谷や飯田が何故、と戸惑っている。でも、尾白はその言葉に頷くことも、言葉を撤回することもしないで、自分が騎馬戦での記憶がなかった事やそれが自分のプライドに赦せない事を言ったのだった。そして、それはもう一人のB組の奴も同じだった。何もしていない者が上がるのは体育祭の趣旨と相反するもの、と告げて。

「で、でも…蒼天くんは…」
「アイツは違うんだよ、緑谷」
「え…?」
「……」

俺の名前が聞こえたが無視を決め込んだ。同じチームだというのに、薄情に思われるかもしれないが、これは尾白とちゃんと話し合ったこと。俺が一枚噛んでいることも分かって、尾白はそう言っている。
他者にとやかく言われようが、俺は出る。

「庄田、尾白の棄権を認めます!」

ミッドナイト先生は許すかどうか不安だったがそれは杞憂で終わる。まさか、こういう青臭い話が好みとは思わなんだ。自分の好みで決めるのは主審としてどうなのか、と思ったがまぁ、雄英だから気にしちゃいけねぇか。
そうして、二人は棄権し、騎馬戦で上位キープを頑張っていた鉄哲チームの二人が繰り上がりで進出することになった。
そうして、くじ引きを行ってトーナメントの組は決まったのだった。

「俺の相手は……」
「蒼天とだ!よろしく!!」
「おう、よろしくな、芦戸」

声に出す前に掛けられた。元気な様子の芦戸に、ニッと笑っていえば、彼女からも笑い返された。同じ組の奴と当たるのって少し拍子抜けにも思えたけど、全力でぶち当たるのみ。
順々に勝ち進んでいけば、ぶち当たる厄介な奴。

「…」

お前にも負けたくないんだよなぁ、爆豪。

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