これが土台になっている。
――――――――――

「やあ不動くん」
「基山」
軍艦が沈没した後、事実上真・帝国学園は消滅した。元より半強制的に構成された真・帝国サッカー部も例外ではない。目的の達成は果たせないわ、利用していた人間に卑下されるわで、俺のしてきたことが間違っていたとしか思えない現実に直面することになる。
ただ苛立つばかりで、何をするでもなく打ちひしがれていた矢先、雷門から引き抜きのお誘いが来た。自分を憎んでいるであろう佐久間と源田がその後に来るとも知っていれば、俺とて入部もしなかったろうに。そうは言っても、現在が楽しいのはそれがあったからだと今の俺は思える。
「君も守に誘われていたんだね。知らなかったよ」
目的達成も果たせなかった上に雷門に加担した俺は、基山に合わせる顔がないと星の使徒研究所に行くことをパスした。それなのに目の前には基山がいる。彼もまた、星の使徒研究所が崩壊後、引き抜かれたのだ。
「まあな」
お互い同じ場所に立ってから言葉を交わすのははじめてのことで、その割には今まで何事も無かったかのように話しかけるという器用な真似は俺には到底成し得ない業だろう。基山は相変わらず落ち着きを纏っている。父さん以外を顧みることはなるべく避けてきたのは俺と同じ筈なのに、こうも違うものなのか。
「で、調子はどうだい?」
口元に張り付けられた微笑みは余裕ともとれるし、慈悲に溢れているともとれる。
「それは俺のことか?それとも…」
「まさか、君のことだよ」
続けようとした言葉は基山の声に消された。開いた口を閉じる。
(エイリア石ではないんだな…)
思い出す。円堂達が星の使徒研究所にいる時間帯、俺が持つエイリア石は砕け散った。憶測だが、俺が目にすることは無かったであろうエイリア石は、本当の意味で目にすることは無くなてしまったのではないかと踏んでいる。エイリア石が粉砕したとして触れてこないのなら納得がいくからだ。

「君には悪かったと思っている」

基山の口からそんな言葉が発せられた。真剣味を帯びていて、よく見れば伏し目がちな緑は地を見つめている。
「今更そんなこと良い」
俺が目的を果たせなかったことに引け目を感じているのとは逆に、目的を与えたことを悔いているようだった。父さんのために動きたいと思っていた俺に、本来ならばするはずの無かった内輪の話をしてくれた基山は今、申し訳なさそうな顔をしている。
確かに俺がせがんだワケではない。基山が自己判断で情報を寄越してきただけだ。勿論、俺のためを思って彼が情報の漏洩を自ら行ったのだと自分は知っている。おそらく、この事実を知っているのは俺と基山の二人だけだろう。いっそのこと、俺を否定してくれれば良いのに、基山ヒロトという人は、俺をいざこざに巻き込んだとして謝罪を申し出てきたのである。
俺は基山とは違って、あまり器用ではないから、笑いかけることができない。
「それに、今は割とこれはこれで楽しいぜ」
それでも俺は今を楽しむ気持ちを伝えるに当たり、自然と顔が綻んだ。基山の前で笑うのは何年振りのことか。当時はまだ、基山の方が背が高かった。
基山は顔の筋肉を弛緩させた俺に動きを止めたかと思うと、子供のように大きな口を開けて目を細めた。
「ははっ、オレもだよ」
その顔があまりにも嬉しそうなものだから、眩しくて目を細める。
基山は小脇に抱えていたボールを俺の胸元にパスしてきた。受けて地に落とすと彼は言う。
「サッカー、しようか」
彼は変わった。
「アンタが俺とか?」
そして、俺も変わった。
「そうだよ。オレが君と」
「ハッ、面白ェ!俺から奪ってみろよ!?」
どうしてだろう。俺は少し泣きそうになっていた。昔は、これが普通だったのだ。いや、本当はずっとこうでありたかった。子供らしく泥にまみれる程遊び、馬鹿なことして、大人に叱られるのだが、そんな俺達を父さんは甘やかして、そんなに甘やかしちゃ駄目だと他の大人に父さんが叱られる。けれど、たまには父さんが叱ることもあって、馬鹿を見て怪我をした俺達を見て静かに怒るのだ。落ち込む俺に、父さんは優しいねなんて言ってくるのはいつも基山の方からだった。俺はその優しさにすら気がつけない糞餓鬼だったからいじけたものだけど。
「フフッ、君ならオレから逃げることが甘いものではないってわかっているよね」
あの日はもう戻って来ない。そう思っていた。
目の前には俺に対して構える基山がいて、夕日は彼の赤い髪を炎のように輝かせる。
「ああ、わかってるぜ。でも俺だってアンタの知っている俺とは違う。アイツが俺を勧誘しなきゃ今も変わらなかったかもしれねェがな」
円堂のお陰とは思いたくなかった。聞いたところによると、父さんが復讐行為を正式にやめたのも円堂の干渉があったからと言うではないか。
これでは本当に円堂のお陰ではないか。悔しい。俺の力ではどうにも出来なかったことが円堂には出来るというのは事実なのだ。しかし、嬉しい。
「それは良かった!いくよ、不動くん」
俺は、再び昔が取り戻せる予感を確かに感じた。
「来いよ、基山!」


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