「別にお前らじゃなくても良かったのよ」
「なに?」
なんとなく口を突いて飛び出た言葉を拾われた。それを聞き直しを求めていると受け取るか、どういう意味かと問われているのか、俺にはわかり兼ねる。
「それはどういう意味だ、不動」
後ろを歩く佐久間が低い声で唸るように声を掛けてきた。どうやら意味合い的には後者らしい。
「あっはっは、何?そんなのもわかんねェくらい頭固ェのかよお前。大丈夫?」
これ見よがしに後ろを振り向いて吐き捨てる。少し言い回しが馬鹿にした風だったため、源田はともかく佐久間は逆上してくるだろう。それから、怒れる佐久間に反して源田は冷静を保とうとするのだと思う。
「貴様ぁっ!」
「よせ佐久間。不動、なら聞くがお前が俺達をここに誘った理由は何だ?」
案の定で、佐久間は源田の制止をくうこととなった。無い牙を剥き出しにして威嚇する姿はまるで醜悪な獣だ。この例えは獣に対する失礼に値するかもしれない。
「鬼道ちゃんだよ」
「きっ、鬼道、ちゃん…?」
獣と言えば、源田の外見は獣くさい。良い意味で獣に似ているのだが、佐久間はその逆だ。
「それは馬鹿にしているのか!」
鬼道のこととなると非常に短期に怒号を飛ばし出す。おそらく、佐久間は鬼道に強い信頼を抱いているのだろうが、こうして裏切ってついて来たクセに結果的には事欠くに鬼道を口走る。酷いコンプレックスの塊で正直気持ちが悪いと感じていた。
「あー、そんな熱くなんないでくれる?熱くなる所間違えてんなよなぁ佐ぁ久間ぁ」
「!」
「まぁ?正直に言うとね、俺らが用事あったのは鬼道ちゃんなワケよ?影山さんだって鬼道ちゃんが欲しかった。でもそんなのどうだっていい。俺が興味あったのは鬼道ちゃんだったから」
まくし立てるように言ってやると奴は少し肩を震わせた。
外見を観ると、端正な顔立ちに年齢に妥当な体格をしているというのに、その性質と言えばこんなにも汚い。自分を棚に上げるワケではないが、何より外見に似つかわしくない。
「なら何故俺達を連れてきた…」
「あの時お前は復讐をと…」
「そうだ。良いこと教えてやんよ」
「?」
なんとなく口を突いてそんなことを言った。予測する。俺は次を口にしたらどちらかに殴られる。
「手前ら二人で鬼道ちゃん一人分だ」
「………」
二人がアホ面かましている内にやめておけば良いのに俺の唇は嘲笑うことを促進する。
「ハーハッハッハッ!?可哀想に!そんな意図にも気付きやしねェのな!平和すぎてボケるような生活でもしていたのか?ん?」
俺も止せばいいのに。
佐久間の手が伸びてきて襟を引きちぎらんばかりの勢いで引き寄せられた。右手には拳が握られていて、やはり殴られるのだなと、他人事のように拳が頬に直撃して鈍い音がするまでを見ていた。
我ながら質が悪い。しかし、簡単に煽りに引っ掛かる佐久間も悪いのだ。鬼道に対する執着を見せているより、こちらのほうがまだ幾分か可愛いものではないか。
「き、さまは…」
「佐久間!」
顔を歪ませる佐久間に思わず笑いが込み上げる。
(コイツ、俺を殴ったことを後悔してやがる)
相変わらず冷静を振る舞う演技をする源田でさえ焦りを浮かべている。佐久間の肩を掴むももう遅い。仮面が脆いものだ。最初から破けたものをつけていたのでは無かろうか。
「先に手を出した方が負けって知ってる?」
思った以上に冷たい声が出て我ながら驚いた。目を伏せ、錆臭い唾をゆっくりと飲み込む。
「けどよォ、お前らには言ってないよな。俺も影山さんのことを良いとは思ってねェって」
「初耳だ」
源田は別段、珍しく思う様子もない。察しがついていたとでも言うのか。その横で佐久間は深く深呼吸を繰り返している。こちらを睨み付ける所からすると、怒りの鎮静には至っていないようだった。
「気持ち悪ィ。あそこまで鬼道ちゃんに執着している所が」
勿論佐久間もだ。
「何故、鬼道なんだ」
「んで手前らに話さなきゃなんねーの」
本当は影山さんが鬼道に熱を入れる理由なんて知らない。俺はただ、自分の目的達成のために必要な布石の一つだったから影山さんに取り入っただけだ。そして、影山さんも俺と同じ考えを所有していることはわかっている。
「あーっ、」
あるフレーズで思い出した。彼らもある目的達成のために、俺達を無意識にも利用していることに当たる。要するに、聞くまでもない。
「鬼道ちゃんは雷門で、帝国学園を裏切ったんだっけか?」
この二人も鬼道を必要としている。
「その話はしないでくれ」
目を拡張させ、即座に返すその様子は実に愉快。源田の皮は全て剥がれた。そう感じた。
「何何源田ァ。ご不満そうな顔して。鬼道ちゃんに見せつけてやんでしょ?」
気持ちが悪い。反吐が出る。ワケのわからない感情を抱かれて、俺から見える範囲でこれだけの人間に執着されている鬼道が不憫にも思えた。本人とて思いもよらないだろう。
「それだか、手前らが選ばれたんだよ。源田、佐久間。いっちばん近くにいたんだろ?」
源田と佐久間が一瞬ビクついた。俺と違い、覚悟とやらはこの二人には十分には固められ無かったのだ。
「影山さんが言ってたぜ」
鬼道は多分俺と同じで、大人と友人に期待を寄せられている。
(早く来いよ。試合しようぜ、鬼道)


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