―――――――――― 十代半ばの女性イタリアンが三人、白日のオープンカフェでまどろむように言葉を交わしていた。 一人は以前ドコかで見たことがある。けして近くはない、言うなれば雑誌とか情報を主に用いるそれらの類でか。緩く肩に流れる錆色のミディアボムは、彼女の落ち着き払った凛々しく清楚な雰囲気にとてもよく似合っていた。 笑顔を携えながらスプーンで空間を回す赤毛は快活に言葉を紡ぎ、愛らしい仕草で肩をすぼませる。二人の会話にはあまり参加していないのだろうか、切れ長の青い瞳の女性は長い髪を耳にかける。少女と言うには大人っぽい容姿だが、多分相対している二人の少女と同じ年頃だろう。少し顔を赤らめている。 何か羞恥に見舞われるような内容でも飛んでいるのだろうか?興味の湧いた私はそのオープンカフェに立ち寄ることにした。 「まだキスもしてない?」 彼女たちの近くのテーブルに着いて直ぐに、そんな甘酸っぱい言葉が聞こえてきた。 「ジジくんはわたしを大切にしてくれてるんだよ」 クセになりそうな位柔らかく甘い声は何故か知っている美少女。あ、と答えに行き着いた所、この娘は女子サッカーチームの白夜の月か。その美しい身のこなしは多くのファンを募らせる。どうやら男の話らしい。これを彼女のファンが知り得たら怖いことになりそうだ。 「フェデリカはそればっかり…」 大人っぽい少女はまだ顔を赤らめている。なんとなくもどかしさというものが伝わってきた。 「それでいいの。わたしは待つ女になりたいから」 そう、少女フェデリカは返す。私の席からではそこまで彼女の表情を確認できないが、美しい微笑みを貼り付けていることだろう。きっとこの娘はいい女になる。 そういえばと呟いてフェデリカは言う。 「最近にジャンナ、告白されたんだよね」 ジャンナとは容姿のマセた背まで流れる長髪を持った女性のことなのだろう、彼女が顔をくしゃりとさせて先より赤くなった。そんな友人の様子を見て泡が弾けるように赤毛が声を上げて笑う。気恥ずかしいのかジャンナはあちらの方角を見て「NOって答えたわ」ボソボソと呟いた。 「笑っちゃうよねー?のっとけっていうの!」 赤毛がニヤニヤとパフェを頬張る顔を歪ませる。フェデリカもジャンナは可愛いね、でもちょっと弱虫かな?と、ころころ笑う。なんにせよ馬鹿にしているようだ。私も携帯を見つつ、片手にコーヒーを飲みながらフフと笑ってしまった。確かに可愛らしい反応だと。 「だ、だって知らない人なんだよっ!?頷けるワケないじゃん…!」 「じゃああの人に告白したらいいのに、」 あわあわと(多分)年相応に慌てふためく姿に若いなぁとあったかい気持ちになる。まさか赤毛の娘がそんな真面目な声を出すなどとは想像にしていなかったのだけれど。 「マ、マルタ…でも私」 「わたしもちゃんと伝えるべきだと思うなー。…本当に好きならね」 おやおや、じれったくて進まない恋バナかと思っていたのだが声が本気だ。今は大人びた少年少女が多いのかもしれないなと思う昼下がり。カフェから目をそらせば若いカップルも片手位には数えられるなあ。私も青春ってものを厳かにして突き放すのではなかったと今更悔いても遅い。なにせ私には養うべく家族がいる。 「わたしはジジくんが好き。告白はわたしからだった。わたしはあの時ただ無我夢中で、とにかく好きっていう事実を伝えたかった。勿論凄く勇気はいったよ?だけど私はジジくんが本当に好きだったみたい。思い出すとドラマチックな告白だったな。恥ずかしかったけど、後悔はしてないの。ジャンナも恋愛をしたらきっとわかるよ」 私は今の環境に満足していることに気がついた。最愛のヒトが甘えてくるのを甘んじて受け入れていたのは、それはもう単純な話で甘えられるのに心地よさを感じていたからだ。息子と娘が可愛いのも愛するヒトとの尊い生命だからだ。 「フェデリカの言う通り。気持ちを伝えられない内が後悔をしているとき。つまり今あんたは後悔しているってワケ。本当に好きなの?それなら告りなさい。そこまでではないの?それなら今まで通りあたし達と平穏で退屈な毎日を送る?」 「退屈は余計だよー」 なんだか少女達の甘い会話にやられてしまったのだろうか?今日は午後から暇になった私はお土産でも買って帰ることにした。 |