ベルロソ前提。二人は友人。
――――――――――

「お前、女に飽きちゃったの?」
「んあ?」
アフタヌーンティーに勤しみつつ、片手に雑誌を読むのはロゼオの日課となっている。とは言え、この昼下がりに思わぬ来客を迎えた彼は、その時間を友人の気が向くままに与えた。結果的には二人して、雑誌片手にだべっているだけではある。ふと口を衝いて出た問いに際したベルディオの反応を見て、我ながらまずったと言わんばかりに顔をしかめたロゼオはおずおずと質疑を追行する。
「いや、だってお前今さ…」
言い難いのか口をすぼめて全ての疑念が口を出ない。すると、言わんとすることを把握したベルディオが「ああ」と呟き、「飽きたんじゃない。止めたんだ」と述べ笑う。その答えにロゼオは目を潜めた。
「女遊びを止めたって?まさか!女をとっかえひっかえしていたあのお前がそんな訳ない」
「人聞きの悪い奴め」
嘲笑を含ませた蔑視を軽々と交わすベルディオの余裕は嘘偽りで無いからこそ来るものだ。現在、彼はロゼオが思い抱いているように遊んでいない。人のベッドを占領して仰向けに寝そべり、雑誌に目をやっていたベルディオは、身体をうつ伏して彼を向く。やや引き気味のロゼオに対し、よくぞ聞いてくれたとした笑顔を浮かべ口を叩き出した。
「アイツ、恋愛をしたことがないから、俺が女と隣にいると寂しがるんだ。可愛い奴だろ」
目を細めて、ヒヒヒと笑う友人に頭を抱え呆れる。「お前、男と付き合ってるんだよな?」「一途…過ぎないか?」
今までに比較して。
そう、頭を抱えたままロゼオは口にする。甚だ、その疑問は確かなものだ。
ベルディオは実に愚かな男である。女を知るや否や、取り憑かれたように女遊びを打ち始めたのだ。その愚考に果たして意味はあったのか。ベルディオ自身、それを見いだせずに前人の後を踏襲するが如く勤しんだ。要するに、意味など最初から無かった。
「知ってる」
ロゼオに「男と付き合っている」というイレギュラー要素を指摘されて尚、その表情は幸福に溢れ、見てる側へ気恥ずかしさを与えた。イタリア国内で同性愛者や両性愛者に関しての認識は、世界的に見て良い方だ。同性愛者を主催としたイベントがあるなどと、容認は大きいものと見られる。
「本気…なんだな?」
真顔になってロゼオが再度問い掛けるのは、このような仲にある人の話に関して、幸福を称えたベルディオを見るのが初めてのことだからだ。彼自体は、ベルディオとその仲にある人物を特定出来ていない上、付き合うに至った経緯も詳しくは知らない。無知の事実に余も知れぬ苛立ちを覚え、大きな目を瞬かせる。
「“試してみる?”」
「ん?」
「最初はそこから」
「うわあ…」
馴れ初め話というヤツだろう。ロゼオは顔を背けた。「ナンパが初めか」
シングルソファの肘置きに首を垂れてうんうん言う。悩ましげにベルディオを盗み見ると目があった。
「ベルディオ」
「うん?」
「続けろ」
「ヴァ・ベーネ!」
無論、反応から察するに、ロゼオは同性愛や両性愛に偏見を抱いている。そして、友人がその類となれば尚更のことだ。ベルディオ曰わく、「好きになろうと思ったのはアイツが初めて。ま、両性愛者って認識で構わないよ」とのこと。そもそも、惚れた腫れた否かというより安易なお試しから始まった恋愛は、思いの外少年が没頭するだけの要素があったらしい。自身の抱く感情がジェラシーだと気がついたロゼオは頭を痛くする。
「粗方わかった。けど、経緯がイマイチ伝わってこない」
長い睫は下を向く。ベルディオは手を遊ばせながら思索した。天を仰いでみたり、首を傾げてみたり、頭を捻りはするのだが、記憶が浮揚して来ない模様。仕方なしに「ああ、言わなくて良いからな」と言ってやる。
「幾度と無い失恋」
直後にそう呟いた。一人納得する素振りを見せて、ベッドから立ち上がる。
「そうだよ、思い出した」
雑誌をベッド端に残し、部屋の扉へと向かった。
「え?帰るのか?」
「ああ、ロゼオ。このことを種にからかってくる」
にやけた横顔はその先のことを見据えているのだろう。ロゼオが「待て、結果的に思い出したのなら話していけ」とベルディオがノブを回していない方の手を取る。
「いつも、告白しても振られるのだと。何でか、知り合ってから毎回俺に報告してきてさ、軽い気持ちで俺と付き合うこと“試してみる?”なんて言ってみたのよ。それだけ」
ロゼオの手を自分の手から解き、「またね」と手をひらひらさせたベルディオが去った後に残るのは、人物を特定したために床に崩れ、頭を抱える友人の彼。
(ロッソかよ!)
頭痛は治まらない。

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