何者でもない、何の変哲もない“ただ”の不動明王が立っていた。工事途中の埠頭岬に海を臨んで佇む。実際の所、彼が立っているその場所には一つの学園が存在する予定であった。
真・帝国学園。それは開発も大詰めを迎えた段階で打ち切られた。偶々「雷門中学校サッカー部を倒す」という目的を持ったもの同士が手を組み、お互いがお互いを利用する形でパートナーとなった時の相手が有し、不動もいた場所が真・帝国学園である。事実上、未だ開発途中であったその学園は“消えた”。正確には、海底へと沈んだ。不動と手を組んだ相手が乗ったままと思われているが、確認をしてはいないので定かではない。
しかし、誰もがそこには触れたがらず、場所そのものに嫌悪している。周囲には警察も多いが、そこに足を踏み入れている不動は、もう幾度埠頭に来ているのか知れない。
不動は己が信じるものがあった。今やその私信に意味はなく、ただ彼を冷たくさせるだけに過ぎない。何故ここに来てしまうのだろうかと、釈然としない頭で海面の澱みを見る。数ヶ月前に制服も脱ぎ捨てたというのに、未だに心のわだかまりが消えないように感じて、己があんまり惨めなものだから、不動はいっそあの時憎たらしくも手を組んだ相方と共に海に沈んでしまえたら良かったと思った所で、やはり不動は惨めな気持ちになった。
緑と黒を基調としたパーカーのフードを被って海を臨む。深い緑を伏せ、瞳は何かを訴えたそうに揺れる。開閉する口は何も語らない。言葉にできなかったのだ。

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テーマ「人外ファンタジー」
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