―――――――――― 「皆と遊ばないの?」 「うん。僕は見ている方が好きだから…」 「………」 アフロディはいつもチャンスウがその土地の子供と一緒に蹴りをしているのを悩ましげに見ていた。その遊びに興味はあるのだが、誰かに声をかけることが躊躇われているのだ。言語は通じない。考え方は違う。文化が違う。壁があるのだ。 アフロディは親同士の友好関係上、韓国にあるその家に泊まっている。チャンスウ達と共に食卓を囲むワケだが、アフロディはそれに気まずさを覚えていた。彼はチャンスウに話しかけられてもそうされると親の後ろに逃げてしまい、話が出来ないのだ。一方的にアフロディが逃げているだけなので、アフロディさえ逃げなければ、会話が成立するかもしれないのもまた事実である。 「照、くん」 ある日チャンスウの声がアフロディの名前を呼んだ。名とは言っても彼をあだ名するものなのだが、驚いたアフロディは彼を振り返った。「照くん」とはアフロディの母親が彼を呼ぶときに口にしているものであった。それを聞いて知ったということはともかく、その親しみやすい呼び名を今までアフロディの名前も知らなかった故なのか、何の断りも、振りもなしに言われたのは、彼にとってはある種のショックへと成り得た。 硬直したアフロディの手を掴んでチャンスウは連れて行く。引き連れられるアフロディは考えていた。何故チャンスウは嬉しそうな顔をしているのだろう。 チェ家の近所にある空き地は子供達の遊び所だ。埃っぽく、くたびれた遊具は、がらんとしたそこをより際立たせる。 足を引き摺って歩けば砂埃が舞う地面にアフロディは驚いていた。チャンスウはと言うと、少し前にアフロディを置いて空き地の裏へと行っている。ここで何をするつもりなのだろうかと、一人の不安に駆られるアフロディは自分の服の裾をきゅっと掴む。 「照、くん」 独特のイントネーションで小さな口から発せられた呼ぶ声に気が付き、内心安心しながら声のした方を向く。チャンスウはその腕に禿げたボールを抱えて立っていた。 「 」 アフロディは、彼が何を言ったか聞き取れなかったが、彼が何を伝えようとしているかは理解する。身振り手振りでアフロディは出来ない意を示すものの、薄く笑ったチャンスウはボールを蹴ってきたのだった。 |