水面に漂う身体。体を丸投げにして沈もうと試みる。水底は深くて見えないが、空の青が映える水中は誰かの酸素が泡を作っていた。
息を吸いたくて仰向けに浮かぶ。空が眩しくて目を閉じた。焼き付ける太陽が揺れる水面に刺さって光の軌跡を構成する。
溺れるために足を動かしてわざと顔に水を被る。あえて手をバタバタと動かしてみれば体が沈んだ。溺れて口に入ってきた水は少しだけ土臭い透き通ったもの。このままガブガブ飲んで、水太りでもして更に深い所まで水と一緒になってしまおうか。
視界いっぱいに泡が弾けた。誰かが沈んでいる。気が付いたらゴンドラが括られている川沿いに思い切り放り投げられていた。
「いたっ!」
体をゴンドラの座席部分に直撃させて、痛みから体を勢い良く摩る。飲んだ水が逆流してきて噎せ込み吐き出した。
「何してんの。死んじまうぞ」
びっしりと睫で縁取られた常人外れた黒目がちな目をした奴が、水気で体に張り付いた服を指で引っ張りつつ言ってきた。怒っているようだが、僕には理由がわからない。彼は勘違いをしている。別に僕は死のうと思ったワケではない。ただ水に溶けていたかっただけだ。
「この川の水質はどう?俺は綺麗な方だと思った」
「はあ…」
ロゼオはわかっていたみたいだ。水に濡れてくすんだ桃色の髪を掻き揚げて笑う。
「少し泥臭いだけだ。飲める」
「それは良かったな」
毛先の方にかけて髪の水気を搾っている様子を見ると、気が付かなかったが意外に髪が長いらしい。
「何で?」
「は?」
「ロゼオは自分が向上することにストイックな人だと思っていたけれど」
「は?」
そんなに頑張っている奴がいるのを見て見ぬ振りして殺すほど自分のことを嫌な奴だと思っていないとブツブツ呟くロゼオは結局、僕が死のうとしていると思っていたんじゃないか。下手な奴。
(どうもありがとうね)

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身を持って水質を計るアズロは本当に溺れていた。


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