パラレルワールドの二人
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サッカーボールを見ると動悸がする。呼吸困難に陥って怖い思いをしたことがある。後悔でもしているのか無性に謝りたい衝動に駆られる。発狂しそうになる。
そんな自分を慣らすために敢えてサッカーを試みたことがある。体が鈍付になって、頭が割れるように痛く耳鳴りが響き、脂汗が浮かんだ。そのくせ一蹴りで良い、蹴ってやりたいという思いも浮かぶ。サッカーに嫌な記憶などはなかった。ここに生誕して、まだよちよち歩きもままならない頃からサッカーボールに怯えていたと母は言う。
今、目鼻先にあるそれに触れようと手を伸ばす。自分でも目が据わっているのがわかった。息は上がり、涙でピントがズレる。怖い。怖い。
「そんな顔までしてやろうとするものじゃないよ」
不動の白い手がおっかなびっくりな震える俺の腕を掴んで制止していた。息遣いが乱れて、涙はスラックスに落ちる。
「うあ…ううう、おえ…」
嗚咽が零れてそれを拾うように不動の手が背中を撫でる。手のひらは完全には触れていなくて、お互いがお互いを信じる仲には至っていないことを物語る。
不確かな感覚だが、己をサッカーから遠ざけようとしているのがわかった。克服しようにも望まれていないのだから、拒絶反応が解消されるはずもない。それでも俺は、同時に惹かれていた。苦しくもがく程怖いけれど、サッカーは好きだと本能が雄弁に語っている。霞む意識には、いつも不敵な笑みを浮かべた髪の長い俺がいる。自責の念を背負ったままフィールドを駆ける姿は我ながら魅せられる。自分と別にもう一人人間がいるような不思議な体感だ。
「不動、多分俺は後悔しているんだ」
他人の家に邪魔しておきながら随分と自由にする自身に突っ込みをしてやりたい所だが、高まったエクスタシーは歯止めを知らない。項を垂れた俺の涙を拭いてくれている不動は、綺麗な声を低くして告げる。
「後悔しているのは僕も同じだよ」


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