ガゼル様がロビーのソファーに寝ていらした。そんな所にそれも一人で寝ていられては風邪を引いてしまうだろう。そう思った俺は気休め程度ではあるが、己が身に纏っていた上着を脱ぎ、ガゼル様へと掛けて差し上げる。 ソファーの肘掛け部を枕に厚い毛髪を押しつけられたガゼル様の寝顔は、酷く子供じみていて可愛らしいものだと言えた。ここにアイシーが表れたら危険だという考えに至り、ガゼル様が眠られる横に多少の遠慮を抱きながら腰掛けた。 「ー、ー、ー」 吐息よりも微かな寝息はこちらまでもを眠りへと誘ってしまえる程穏やかだ。現に俺は眠くある。 寝てしまおうかと体をソファーに深く埋めた所、肩に温かな体温を感じた。 「やさしいのね」 背後に俺の肩に手を置いたクララが立っていた。 「クララ…」 眠い、と言葉を続けるのはやめた。クララは俺と接したいと感じる時にしか、故意に話しかけてこようなどとはしないのだ。俺に好意を寄せている素振りを見せる割には積極的ではない。かといって、行動が控え目なワケでもないのだが。 「隣、いいかしら?」 「どうぞ」 偶然、ガゼル様が眠られていらしたソファは二つのソファを密接させたが故に大きめのサイズだったため、ガゼル様が足を投げ出した状態で横になられていても、クララが座る位のスペースはあった。ただ、いかんせんクララとの距離が、肩と肩がぶつかる程近いのはこっぱずかしくある。 「ブロウ、好きよ」 彼女は突拍子もなく愛を語る。いや、愛と言うよりは只ならぬ想いだのと言った方が相応しいのかもしれない。何故ならそれが愛しいとか、恋しいとかを決めるのは、俺ではない彼女自信だからだ。 「また、いきなりだね」 そう言ってクララを見やると、彼女の特徴である儚げな瞳が俺を捉えて笑っていた。クララのことを、このエイリアと名付けられたチームの中で隠れて好いている者は多々おり、彼らの大半が彼女の儚い風貌に惚れている。皮肉にも俺もその一人だが、彼女のこんな表情を見ることができるのは俺ぐらいなのだろうなと自負している。そして俺はクララのこの表情が大好きだ。 「あなたのそういう所」 「あ…そう」 俺の口から落ちた声音は落胆の色が含まれる。クララの言葉に期待をしていた己がいたことに恥ずかしくなり、彼女から目を逸らした。 「ブロウ」 クララは俺の名前を呼ぶと、俺の左手を両手で包み込んだ。己の体温が上昇するのがわかる。 「期待でもしていたの?顔、真っ赤よ」 「…!」 そんなこと言わずとも目を合わせた時点で気がついていた。俺はめっぽうクララには弱い。それでも、改めて言われると動揺してしまうもののようだ。 無言の俺に彼女は返答を求めることはしない。俺に寄り添ってきた彼女の手を握り返してやるとクスクスと笑われた。 「ブロウって本当に口下手よね」 肩の辺りから聞こえてくる彼女の声はこそばゆさを持っており、俺はますます縮こまった。 (君にだけだよ) そんなことはなんだか情けなくて口にも出せない。 |