これをもとに作成。 ―――――――――― 「リオーネ」 「…ドロル」 二人の間に妙な間が生まれる。それはどちらかと言うと良い雰囲気であって、偶々逢い引きの場に遭遇してしまった男はその空気を裂きたく思い、通る予定は無かったのに横切った。 「あ、お構いなく」 彼は笑ってはいたものの、内心傷ついていた。仕方の無いことだと目を伏せて、二人の間を通り抜けていく。後悔を思う。 (先を超されてしまったのだから仕方がない) 「それで?私に何のようだい」 「いや、だから」 「君は自分のチームに相談が出来る相手もいないのか」 「そうでなくて!」 「冗談だよ。そんなに焦る程君が彼女を好きだったとはね。意外だったよ。ただの馬鹿真面目だと思っていた」 「あなたは相変わらず余計な言葉が多い人だ」 恋仲にある二人が所属しているチームのキャプテンに当たるガゼルに、その胸中を打ち明けるとからかわれた。彼がガゼルに相談するのは、少なくとも自分より二人のことを知っていると考えたからである。いつの時からそうなってしまってからは覚えている必要がない程に、ガゼルとネッパーは友達という代名詞を掲げても違和感はない存在となっていた。 「だってあなたはリオーネの仮面の下を知っている」 「それはあくまても昔の話だ。今の顔とは多少違うだろう」 「それでも二人のことを俺よりは理解しているんだろう?」 「肯定しようではないか。まあ、私はリオーネをダイヤモンドダストで一番綺麗であると思う」 「藪から棒に何だ…。今の顔は知らないんじゃなかったのか」 「君はリオーネのどこに惚れた?顔が見えないのに」 彼はガゼルの言わんとしていることを察したが、顔を背けてガゼルの発言に対し肩を揺らして頬を染めた。 「純粋なんだよ彼女は。別にクララやアイシーが綺麗でないと言っているワケではない。引き合いに出すとすれば、アイシーは普段実兄を貶すような言葉を仄めかしているが、試合の時には兄の出す指示に正確に従うからな。彼女は彼女で一応兄を慕っているんだよ。その中でも悪い口を利かないのがリオーネだ。だから私は彼女を綺麗と称する」 ネッパーはどう答えて良いかわからず、赤い顔のまま狼狽えた。 「もしかすると汚い口を利けないのかもしれないな」 そんな彼を横目に笑う美形の少年は脚を組み直す。 「そうか、そんなにリオーネが好きか」 「ドロルにはかなわないけどな」 「へえ?何故そう考える」 「俺は遊びのつもりだったんだ。ドロルがリオーネを好きだというのを聞いて、『俺が奪っちゃおうかな』なんて冗談で言った所までは良かったのに…」 「君は大馬鹿者だな。本当に好きになってしまうなんて」 「…何が良いのかと思って、見かけた時によく観察していたら、リオーネばかり目で追っている自分に気がついて、最初は戸惑った」 先を促すようにガゼルは顎をしゃくる。 「それで、ザ・カオスを組むときに気がついたんだ。リオーネの隣に立ちたいと」 「何だ。ドロルと同じ条件が揃ったではないか。何が君にドロルには適わないという思いを抱かせるのか、私には理解ができないな」 「アイツは行動に出ていて…」 「行動?」 ガゼルが指を組み直す。その動きを見るネッパーは少しの間を開け内容を口にする。 「バレンタインの時に、逆チョコを渡して気持ちを告白したとさ。俺はその時『ああ、先を超されたな』と何度も浮かんだよ。未だにその時のことを覚えている」 ガゼルの指を見たままに言葉を切る。 即座に返答を返してきた先程までとは違って間が生じる。ネッパーが顔を伺うのにチラと目線を向けると、ガゼルはこちらに向けて下品な笑いを浮かべていた。「美形がそんな顔をして良いのかよ!」という言い分もあったが、彼は実際には顔を引きつらせた。 「手伝ってやろうか?」 「え、何を?」 下品な笑顔を引っ込ませるとガゼルは策を提案するように人差し指を振る。理解に及ばないのか、ネッパーは疑問符を浮かべる。その反応にいっそう笑みを深くする。 「君の恋をだよ」 「…は?」 彼は一瞬呆けた。かと思えば、顔を強ばらせて「え?え?」と執拗に繰り返す。ガゼルは明らかに動揺しているその姿に腹を抱えケタケタと哄笑をあげる。 「君がその気になる日が来るまで待っていてやろう、ネッパー!」 しばらくして赤い顔のネッパーがガゼルを咎めたのは言うまでもなかった。 |