捏造と思い込み。
――――――――――

「泣くなよ」
そういって僕の頬を両手で包む。被っていたフードはその子の計らいで背中に垂れていた。
「泣くなって」
その声の持ち主は穏やかに言うけれど、顔を上げることができずにいた。僕は自分の顔を隠そうとしてフードのついた服ばかりを着ている。おもむろにフードを被ろうとしたのだけれど、手はフードを掴む前に彼に掴まれた。
「大丈夫だって」
そう言って僕の両手をその子自身の顔に触れさせる。温かい頬だった。心なしか笑っているような気がして、その子の顔を見たくなった。頭を下げている僕に見えるのはその子の足辺り。多分、男の子。
「名前、何て言うんだ?」
それは今の名前だろうか。それともここに来る以前の、思い出したくない本名のことなのだろうか。
「俺から自己紹介するね」
凍地修児って言うんだ。
聞いたことがあった。僕はこの名前に覚えがある。僕がここに来る少し前に来たという兄妹の兄の名前だ。
その名前の持ち主は僕の手を包んだままで、僕の体温のせいか手が少し冷えてきていた。分けるように熱い熱が伝わって、氷のような手のひらは温もりを持つ。
「やっと泣きやんだ。良かった」
ふふ、と笑うその子。僕はそれでも怖くて顔を上げることができない。頭に何かが乗る感覚を感じた。その子はまたふふ、と笑う。
「…おもいよ」
その子の頭だった。ぴったりと乗せられているのが温かさでわかる。
「やっと話してくれたね」
「あっ」
驚いて声を上げた。両頬が熱い。正面から見た修児はカッコいい男の子だった。
「もう大丈夫だよ」
両頬が熱いのはこの子の手の熱だけのせいではないかもしれない。「一角」どこで知ったのか僕の名前を綺麗な形の口が音にして出した。
「だからもう泣く必要なんてないからな」



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