その日何を思ってか俺は花が喰いたくあったので、ジュリアンの自室の薔薇を一本手に持って眺めていた。そのまま食もうにも強い香りがそれを躊躇させる。火力でも加えて熱せば温かいスイーツにでもなるだろうか。プツリと花弁を一枚摘み取る。唇よりもずっと赤い色はどちらかと言えば血液を彷彿とさせるものだ。
人差し指と親指の間に挟んで少し強く圧してみる。その柔らかな表面は上質な布生地のような滑らかさがある。指先の赤をそれぞれの反する方向に滑らせれば、擦り潰れて指を染めた。
「……」
一輪を手にした側の手のひらを開く。スルドい痛みに目を向ければ一方と同じ動作をしていたのだ。前意識下の動きにやれやれと、ただ我ながらあっさりとした様子に薔薇の棘を折る。
白く骨ばった己の手へと舌を這わす。くわえた薔薇で口に傷をつくった男のことを思い出して、何だか虚無感と疲労感に見舞われるのだった。結局は意味のないこと。

ジュリアンが口を大げさに切ったらしい。
(愚かしいと思った)

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