「ナイスだ星二郎!」
さて果て、どういういきさつかは忘れたが、基山ヒロトは四十代後半程かと思しきの男とサッカーをしていた。出会ってその日の内に友達になってしまう子供とはワケが違う。ヒロトと男は二周りは歳が離れているのだ。
「父さんの…お友達、ですか?」
「あれ?…君ってもしかしてヒロトくん?」
おっかなびっくりな顔をされて思わず笑ってしまう。吉良星二郎を知っていて、おそらく吉良ヒロトも知っている。旧来からの知人なのだろうと、ヒロトは話を合わせることにした。
おひさま園から少し離れた所にある空き地には、施設生らがこっそり遊びに行くことがある。殺風景でだだっ広いだけの場所は大層な無法地帯となっているため、まだ年齢の幼い子供達は寄り付こうとしない。当日、ヒロトは空き地に来ても何もせず、木目が薄くなって見えない白ちゃけたベンチに腰掛け、青臭さと土臭さの混在する空気に触れていた。視界の奥の方にサッカーボールが一つ転がしてあることには気がついていたが、それがまさかこちらに真っ直ぐ飛んでくるとは思いも寄らない。突然のことに驚起し、蹴り返したヒロトの先に中年男性がいた。いきさつを省けば冒頭となるワケだ。
現在、ヒロトと男はベンチに腰掛け、話に花を咲かせている。ほぼ一方的に思い出話を語る男にただただ耳を傾けるだけのヒロトは、実際男の話が良くはわかっていない。それもそのはず、男は少年を吉良ヒロトであると勘違いしたままなのである。あまりの盛り上がり振りにヒロトはヒロトで事実を言うに言えないでいた。
「そう言えば、さっき星二郎って…」
「ああ、あれか。いや、若い頃のアイツに似てたから。それにしてもヒロト君、ずいぶん大きくなって…あれ?でもそれじゃおかしいなぁ」
ヒロトは苦笑いを零した。だが、それ以上に「若い頃の星二郎に似ている」という謂われに自分の事ではないと頭では理解していても嬉しくてそれを隠すかのように頭を掻いて誤魔化した。
「まあ、いいか」
そう言って男はベンチから腰を浮かす。彼の動きに顔を上げた少年を一瞥して「俺はずっと海外で働いてたしな。星二郎によろしくなー」と手をひらひらさせて背中を見せる。男の後ろ姿に手を振り、姿が見えなくなったところで「俺も帰ろうかな」と施設の誰かが置いていったと思われるサッカーボールを腕に抱えた。
(散々喋るだけ喋って帰って行った…)
そう言えばあの人、ヒロトの話になった瞬間目が泳いでいたな。まるで「どうしてお前が生きているんだ」とでも言いたげな。
そこでヒロトはある仮説に行きつく。そして、それは限りなく正解に近い答え。
(………ああ。そうだったんだ)
なんて矛盾した話だろうか。彼が俺にあったのは多分十二年前国外で。



あの日に戻れたら君を殺そう
Thanks:maria


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