習慣の如く、俺は花束も持たずに兄さんが入院している病院に通っている。時々病室ではなく、リハビリ室にてリハビリテーションに励んでいる姿を見るのだが、そういう日は何も言わず、来た道を戻る。罪悪感に苛まれて、見ていられないのだ。その自分の行動を正解だとは思わない、むしろ誤りだと思う。
フィフスセクターからの指示により、雷門へ入学して後、兄さんの病室にはじめて訪れた。「豪炎寺さんと同じ雷門に通えるだなんて、やるじゃないか」と、顔を綻ばせた兄さんに迎えられたことが息苦しくて、下手くそな笑みを浮かべた自分が窓に反射する。通う毎に根付いた今日一日に何があったかの報告を、何故か楽しみにしている兄さんに相変わらず伝えていると、兄さんが俺の頭頂部らへんに対し、手のひらを水平に構え動かした。
「京介、また大きくなったね。もしかして俺より大きくなったかな」
そう言う兄さんはおもむろに数字の羅列をペラペラと口遊む。やがて、その数字が過去の俺の身長だと気づくや否や「やめてくれ」と兄さんの口元を押さえる仕草をしてやった。笑ってやめようとしないのは、俺が本気で止めようとしていないことを兄さんは知っているからだろう。意地の悪い人だ。
「ごめん、ごめん。ふて腐れるなよ京介」
「別に、ふて腐れてないよ」
「そう?」
俺は頷いてみせる。
「そうだ。京介、俺の横に寝てみてよ」
直後、ふと思い至ったように兄さんは言う。顔が花が咲き誇るように綻んでいた。
「何で?」
「背比べ」
兄さんは楽しそうに目を細めた。体を起こして、掛け布団を足元に跳ね飛ばすと、更にベッドの左側に体を動かした。右側のシーツをポンポンと叩く。俺は苦笑しながら靴を脱いだ。
「あ」
声を漏らしたのは俺の方だ。今度は兄さんが苦笑いをする。
「背、一緒になっちゃったね」
兄さんと身長が並んだという事実は、それが四肢が動くたる所以と言わんばかりに思えた。無常で切なくて、自分の目頭が熱くなっていくのがわかる。
「はは、全然兄面できない」
悲しそうに笑うなよ。
俺はそんな兄さんに何も返すことができない。

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